夏の風物詩「セミの合唱」をリードするセミの種類が…東京都内ですっかり変わってしまった!
温暖化とヒートアイランド現象が原因
ともかく、冒頭で述べた九段下駅の外で聞いたセミの合唱は、大阪で聞けるそれとほとんど一緒だったので、筆者は「ここは本当に東京か?」という錯覚にとらわれたのである。クマゼミは国内に生息するセミのなかでは最大級で、真っ黒い体は頭から尻まで45~52ミリあり、透明な羽を含めると63~70ミリほどになる。それにしても、なぜ東京でクマゼミがこうも増えたのだろうか。
以前、以下のような仮説が提示されていた。南方系のセミであるクマゼミの卵は、東京の冬の寒さに耐えられずに死んでいたが、温暖化およびヒートアイランド現象で、東京でも卵が越冬できるようになった――。筆者もそれを読み、納得していたが、その後の実験で、クマゼミの卵は冬の寒さにも耐えられることがわかった。
とはいえ、気温の上昇および都市部のヒートアイランド現象によって、南方系のセミが生息しやすい環境が生まれていることはまちがいない。また、やはり気温の上昇と関係するが、幼虫が孵化する時期が早まり、梅雨時と重なるようになったことで、乾燥を免れるようになり、土にも潜りやすくなって、生存率が上がった、という指摘がある。
もうひとつ、東京や横浜のクマゼミは、常緑樹が多い場所で数が多くなる傾向があるという。たしかに北の丸公園や靖国神社の周辺にも常緑樹が目立つ。元来、西日本には常緑樹が主体の照葉樹林が多く、関東は落葉広葉樹林が多いという違いがある。だが、都市化によって東日本にも常緑樹中心の公園などが増えている。つまり、クマゼミの増加には温暖化と並んで、公園などを整備する際に地域らしさが顧みられない影響もあるものと思われる。
南方系の昆虫が続々と東京に
今年も7月中旬以降、急激に暑さが増し、最高気温が35度以上の猛暑日を記録する地点が、前例のないペースで増加し、最高気温40度以上の酷暑日も過去最多となっている。だからといって、北方に移住する人はあまりいないと思うが、昆虫のような小動物が住む場所は、こうして確実に変わってきている。
ほかに例を挙げれば、日本で最大級のアゲハチョウであるナガサキアゲハ。シーボルトが長崎で採集したことから、そう命名されたというこの南方系のチョウは、かつては九州や四国、本州では山口県などで見られた。昭和47年刊行の『標準原色図鑑全集1 蝶・蛾』(保育社)には、〈岡山・島根・鳥取県下ではわずかの採集記録があるだけで少ない。近畿地方では兵庫・大阪・和歌山県下でえられているが、少なくとも大阪の記録は迷チョウと思われる〉と書かれている。
そんなチョウがいまでは、東京や横浜でも珍しくなくなり、新潟県や東北地方でも見つかっている。やはり冬の気温の上昇が、北上の主因とみられている。
お尻の部分にうちわ状の突起があるタイワンウチワヤンマも、九州や四国でしか見られなかったのが、いまでは東京でも珍しくない。冬の寒さが和らぎ、北方でもヤゴが生存できるようになった、と考えられている。
ツマグロヒョウモンも、いまでは東京や横浜の住宅街や公園で、それこそモンシロチョウ並みに当たり前に見かける蝶だが、上述の図鑑にはこう書かれている。〈日本では本州西南部以南に広くふつうに産し、南西諸島にも多い。北海道や本州北部ではわずかの採集例があるのみ〉。実際、1990年代までは関東地方ではほとんど見られなかったが、いまではすっかり大衆的なチョウとなった。
増えた原因には気温上昇やヒートランド化に加え、食草の流通が指摘される。前述のナガサキアゲハも食草である柑橘系の樹木が北方に流通するにつれて北上した、という指摘がある。ツマグロヒョウモンも同様に、食草となるパンジーなどスミレ科の植物の苗が流通するのにともなって、卵や幼虫が運ばれたとされる。だが、温暖化していなければ、運ばれた場所で繁殖できなかった、と考えるのが自然だろう。
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