「プロモ視察」高市首相の被災地訪問が、安倍、岸田、石破政権と決定的に異なっていた点

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BGM付は高市首相だけではない

 高市早苗首相が熊本地震の被災地を訪問した様子を紹介した動画が、首相官邸のX公式アカウントから投稿されるや否や、「まるで首相個人のプロモーション動画のようだ」と主にSNS上で批判が集中した件についてはすでにお伝えした通り(関連記事:「まるでプロモビデオ」批判噴出 高市首相の被災地訪問動画に使われたプロパガンダの定番テクニック)。

 果たしてこうした批判は正当なものだったのか。過去の政権と比べて見えてきたのは、被災地訪問における高市首相の「独自スタイル」だった――。

 ピアノ曲のBGMと共に被災地での首相の振る舞いを紹介したPR動画に関しては、野党議員らからも批判の声が上がった。

 一方で、高市首相をかばう声もある。少なくともBGM付の被災地訪問動画は、石破政権、岸田政権でも同様に制作され、投稿されている。それなのに今回だけ批判するのはおかしいではないか、という指摘もある。

 実際に岸田文雄氏は2024年2月24日、能登半島地震の視察をした様子が、石破茂氏は同年10月5日、能登半島を襲った豪雨災害の被災地を視察した様子が、やはりBGM付で投稿されている。しかし当時これらは今回ほどの非難を浴びていない。となると、今回の批判は高市首相への不当なバッシングということなのだろうか。

現場映像が少ない高市首相の動画

 岸田氏、石破氏、高市首相の3本の動画を見比べると、いくつかの違いが見られる。前2者と高市首相の動画の作りは異なる点が目立つ、とも言えるだろう。

 まず、岸田氏と石破氏は、避難所で被災者を前に正座して対話をしている様子が映されている。一方で、高市氏は終始、椅子に座って対面で話していた。しかしこれに関しては、高市氏は持病を抱える身なので、責めるのは酷だという見方もある。正座のほうが印象はいいかもしれないが、それを強いるのはやり過ぎだろう。

 ただし違いはそれだけではない。岸田氏と石破氏の動画では、実際に被害が甚大だった場所に出向き、視察し、黙礼する姿が捉えられているのに対して、高市首相の動画では、そうした場面はない。ヘリの上空から手を合わせて祈る姿が印象的だ。

 絵のバリエーションも、岸田氏と石破氏は、現地の各所に足を運んでいるのがわかりやすい作りとなっている。岸田氏の場合、農業、漁業、伝統工芸への支援を語るナレーショに合わせて、それぞれに関係した場所で説明を聞く姿が紹介されている。石破氏はさまざまな場所で被災者と対話する様子が丁寧に描かれている。

 これらに比べると高市首相は、室内でのシーンが目立つ。また、動画が全体的に「困っている被災地」よりも「国や地域に感謝する被災者」を中心に取り上げている点も特徴的である。

 こうした作りの違いが、「プロモ感」の強弱に関係している可能性は高そうだ。もちろん、これは高市首相の問題というよりは、動画制作者の問題だという指摘は可能だろう。岸田、石破路線の動画を作れば、ここまで「プロモ」だ何だと悪く言われることはなかったかもしれない。

精力的な歴代首相の被災地訪問

 ただ、3人の首相の当日の動静を見ると、高市首相の動画はそもそも素材が少なかったのではないかという見方も可能である。
 
 岸田氏の当日の動静を見ると次のようになっている。

 午前7:48 防衛省をヘリで出発。
 午前9:26 その後空自輸送機に乗り継ぎ、能登空港着。
 午前10時~午後2時過ぎまで現地の各所を回り、首長や地元の人と話をする。回ったのは「穴水町さわやか交流館プルート」「避難所」「輪島市の棚田」「輪島キリコ会館」「広場の応急仮設住宅」「輪島市の漁協」「輪島港岸壁、荷さばき所」「輪島朝市の火災現場」「輪島塗会館」など。これらを目まぐるしく回ったのちに東京に戻っている。

 石破氏の動静は次のようになっている。

 午前 6:01 議員宿舎を出発。 
 午前 7:47 狭山市の入間基地から航空自衛隊輸送機で出発。 
 午前 8:45 能登空港着。
 午前9時30分~午後2時過ぎまで現地の各所を回り、首長や地元の人と話をする。回ったのは「輪島市の住宅流失現場」「輪島朝市の火災現場」「輪島市の仮設住宅」「輪島市の小学校にある避難所」「珠洲市の浸水した校内の仮設住宅」「同市内の土石流災害現場」「市内の別の小中学校の避難所」。やはりこれらを目まぐるしく回ったあとに東京に戻っている。

 高市首相はどうだったか。

 午前 9:17 公邸を出発。
 午前10:13 羽田空港発。
 午前11:29 熊本空港着。
 午後 0:13 陸自ヘリに乗り、「イオンモール熊本」「日本製紙八代工場」などを上空から視察。
 午後3時から氷川町の避難所を視察、その後県庁へ。この間、首長や避難者と対話。
 午後8時過ぎに熊本を発ち、東京に戻る。

 予定を見る限り、現地での映像素材が少ないのは明らかだ。

 ちなみに安倍晋三元首相が2016年に熊本地震の視察に訪れた際は、朝6時台に羽田を発ち、現地では被災現場、避難所の他、警察官、消防隊員を激励し、老人ホームを訪問するなどかなりタイトなスケジュールをこなしている。

 安倍、岸田、石破氏と比較した場合、高市氏の出発時間の遅さと現地での立ち寄り先の少なさは独自のスタイルと言えそうだ。なお、首相はこの前日は日曜日ということもあり、終日公邸で過ごしている。

記者クラブと官邸の共同作業

 問題は、高市首相の動向を伝える新聞や通信社の側にもありそうだ。「プロモ動画」批判について取り上げた記事もないわけではないが、「過去の政権でも同じようなものを作っている」といった政府側の主張を紹介するだけにとどまり、過去の政権の被災地訪問との違いを検証、指摘するものは見られない。いわば政権とメディアの共同作業によって、動画がよりプロモーションとして機能しやすくなっているという面も否定できない。

 ジャーナリストの烏賀陽弘道氏は、著書『プロパガンダの見抜き方』の中で、企業や官庁の「プロパガンダ(発表・売り込み)」を受ける「マスコミ側窓口」の代表が「記者クラブ」だ、と指摘して、次のように述べている。

「持ち込まれたプロパガンダをどの程度の比率で記事に反映するかは、マスコミ側の組織文化や記者個人の資質によって大きく変わる。プレスリリースそのままのような記事(『パブ記事』と揶揄される)を書く記者もいれば、そうしたリリースには見向きもせず『独自ダネ』を追いかける人もいる」

 高市首相の被災地訪問及び動画に関しては、当初、記者クラブ発の記事で批評的な観点で捉えたものはほとんど見られなかった。その意味で、パブ記事に近いスタンスと言えそうだ。

 これを「いちいち政権批判しなくなったのは良いこと」と捉えるか、あるいは「メディアがプロパガンダの垂れ流しに加担している」と捉えるかは、人によって大きく異なるだろう。前者の人は高市首相の訪問に関しても「現地に負担をかけない奥ゆかしさ」と解釈するかもしれないし、後者の人は「単に被災地に興味がないだけ」と解釈するのかもしれない。

デイリー新潮編集部

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