「刺せ!」「殺せ!」野球場に飛び交う物騒な言葉は“守り続けるべき伝統”か…変化を好まない野球界に投じられた一石の意義

  • ブックマーク

あくまで“見直そう”

 野球界に定着するこのおかしな慣習を「見直そう」とする動きが始まっているとネットニュースで知り、私は大いに関心を抱いた。私自身、以前から「物騒な野球用語を見直すことができないか」と考えていたからだ。

 7月9日付けの河北新報によれば、

「物騒な表現を含む野球用語の使用を考え直そうと、宮城県高校野球連盟が今秋にも検討委員会を設置する。アウトの奪い方を巡り、生徒たちに『刺せ』や『殺せ』と伝えない指導を目指し、言い換えの案を話し合う。検討結果は来春、県高野連加盟校の全指導者に周知する方針。取り組みは県内の小学校から社会人にも広げたい考えだ。

 委員は10人前後の予定。県高野連の松本嘉次理事長と副理事長2人の他、元理事の国語教師人や報道機関の関係者らで構成する。

 検討対象は『刺』『殺』『死』『盗』『犠』の文字を含む用語が中心となる。指導現場での使用に加え、主催大会の公式記録や記念誌の表現も改める方針だ。片仮名での言い換えや新語の創出を視野に入れる」

 この記事を読むと、かなり意欲的な取り組みだと感じられる。一方で、一都道府県の高野連が日本高野連に先駆けて先鋭的な動きをして大丈夫なのか? という心配も浮かんだ。かつて新潟県高野連が「翌年の春季大会から球数制限を導入」と決めた際、日本高野連から全国一律の動きに従うよう指導を受け、結果的に導入を棚上げした経緯がある。それが頭に浮かんだから、今回も日本高野連から指導を受ける懸念を感じたのだ。

 早速、宮城県高野連理事長に電話で取材を申し込み、応じてもらうことができた。松本理事長は、次のように話してくれた。

「野球用語を変えるなんて、それほどのことは考えていません。私たちはあくまで、『野球の指導現場で使う言葉を見直そう』という、そういう主旨です」

野球用語ってなんか物騒じゃないか

 その言葉は私の期待からすればかなりトーンダウンした印象を受けた。しかし、『指導現場で使う言葉を見直そう』という動きなら、日本高野連の横やりを受ける恐れも低いだろう。なかなか深く考えられたスタンスだと感心した。

 宮城県でこの動きが始まった端緒は、宮城県立名取北高校の授業《探究活動》にあった。これも昨年12月17日に河北新報が報じている。

「きっかけは今年4月、威勢のいいかけ声が響く名取北高のグラウンドで、練習中の野球部員が口にした違和感だった。

『当たり前だと思っていたけど、野球用語ってなんか物騒じゃないか』

 野球では、守備側がアウトにすることを『殺す』、攻撃側がアウトになることを『死ぬ』と表現する。捕球でアウトなら『刺殺』、走者を塁間に挟めば『挟殺』など、生死に関わる単語が多い。

 同部は今秋の宮城県大会で3位に入り、創部46年で初めて東北地区大会に出場した。来春行われる選抜大会の21世紀枠候補に選出され、着実に力を付けてきた。

『部員同士で日常生活から正すと決めているのに、刺せ殺せと叫ぶのはいいのだろうか』

 丸山諒大主将(2年)らの声を聞いた部長の榊良輔教諭が、生徒の課題解決力を育む探求活動のテーマとすることを提案。野球部員以外のメンバーも加わり、野球用語を考える取り組みを本格化させた。

 野球部を対象としたワークショップでは、投手が投げたボールが打者に当たる『死球』や、バントで走者の進塁を目指す『犠打』も物騒に聞こえるとの意見があった。『投手のモーションを盗め』や、『(バントで)お前は死んでもいい』のかけ声も『未経験者が聞いたら怖いと思う』との指摘も」

次ページ:正岡子規を冒涜する気か

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。