「東京スカイツリー(R)」「渋谷ヒカリエ」を手掛けた建築家「吉野繁氏」が明かす“都市のシンボル”を設計する苦労…「“変なものを作ったら孫の代まで笑われますよ”と言われましたね」
スロープがスカイツリーに生きる
――さきに設計された未来館にもオーバルブリッジというスロープがあります。これもまた、天望回廊に活かされているのでしょうか。
吉野:そうです。あのオーバルブリッジがあったので、天望回廊のアイディアをクライアントに提案できましたし、実際に未来館で歩いて体験してもらいました。「なるほど、これだったら年配の人でもベビーカーを押す人でも歩きやすいね」と、認めてもらえた。実は、スカイツリーの天望回廊は、未来館とまったく同じ勾配と幅で造られているのです。
――ジオ・コスモスという地球の展示の周りを、ゆっくりと上っていくときの上昇感は最高ですね。
吉野:でも、ジオ・コスモスありきでデザインしていないんですよ。はじめは、背の高い展示物が来るかもしれない、という感覚で設計しているのです。H2ロケットがあそこに立つようにしよう、とかね。
――そうなんですね。とはいえ、スロープと地球は見事に調和していますし、独特の浮遊感もあります。
吉野:スロープが浮いていますからね。あれを実現させるまでにも、様々なエピソードがあります。未来館のクライアント側担当者の一人で、後に副館長になる竹内さんが、予算がオーバーするなか、「いろいろなものをこれから削るけれど、若手一人一人がどうしてもやりたいものがあったら、それはこちらも頑張るよ」と言ってくれたのです。
私は、スロープをどうしても残したいとお願いしました。そうしたら、わがままが通ったんですよ。現実問題、吹き抜け空間の屋根と、支持する柱に使う鉄骨が細長すぎるので、その柱を梁で繋ぐ必要があった。スロープは柱を繋ぐ役割も果たしているのです。そういう機能もあったので、予算の都合でやめようとならずに残った、という事情があるのかもしれませんが。
スカイツリーの天望回廊も、計画中には必要性が議論されることもありました。しかし、未来館を体験したクライアントのみなさんが、「残しましょう」と言ってくれた。これは、建築家として感無量でしたね。
風景になじんでいるのを見て、ほっとしている
――スカイツリーは、現在のデザインに行きつくまでに様々な試行錯誤がありました。浮世絵の「見返り美人」のような袖がついたアイディアもあったんですよね。これは、相当評価が高かったのではないでしょうか。
吉野:はい。クライアントからの評価は本当に高かったですね。ただ、袖のひだの部分が機能面を考えると、無駄な構造になってしまうのです。特定の方向からかかった力に対しては、まったく効かないですからね。現在のスカイツリーの部材は、どの方向から来た力に対しても有効な、最小限の部材でできているんですよ。
――削りに削った形なのですね。
吉野:スカイツリーは足元の平面が三角形なのですが、これも四角形に比べれば、少ない部材で効率的に強度を確保できる形です。
――スカイツリーが竣工して14年が経ちましたが、改めてどのように思いますか。すっかり東京の風景として、馴染んでいますよね。
吉野:あんまり悪口を言われないのが、ほっとしているところですね(笑)。パリの「エッフェル塔」は、できたときにものすごい反対運動が起きたそうです。そうなったら嫌だなと思っていたのですが。幸いにも東京の景色に溶け込んで、あって当たり前になってきている。ありがたいことだと思っています。
第2回【「いつかは“山小屋”と“こたつ”を設計したい」 東京スカイツリー(R)を手掛けた建築家「吉野繁氏」アイディアはあるけれど「まだ誰も発注してくれません(笑)」】では、東京スカイツリー(R)を手がけた建築家「吉野繁氏」に、将来設計したいものが「山小屋」「コタツ」であることについて、その理由を詳しく伺っています。




