100メートル先にクマを発見…旭山動物園の統括園長は、その時どうしたか 『クマ撃ちの女』作者と語る「共生」を叫ぶ前にすべきこと

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「山を豊かにする」という対策は効くのか

――ちょっと大きな話ですが、人は自然全体に対してどう向き合っていくべきだと?

坂東:クマ対策の一環でもあるんですけど、研究の視点からも、山を豊かにしようという考えはあるのです。クマが人里に下りて来なくてもいいように、山で完結する餌環境を作る。実のなる木、コクワのように登らないと食べられない木であれば、シカと競合しませんし。ただ、それをやるとクマの栄養状態が良くなって、さらに増えるという見方もあって。

安島:難しいところですね。

坂東:とりあえず、北海道では国有林を伐採する際、広葉樹を切らないという政策に切り替えています。広葉樹はあまり利用しないから邪魔扱いされるけど、あえて残そうと。針広混交林を作らないと、多様な生き物が生きられる豊かな森にならないのです。見方を変えれば、山の中に動物の食べ物が増えることになりますね。

安島:山を豊かにするという考え方、面白いですね。

坂東:もっと大きな話をすると、世界的には「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」と掲げていて。どの国も2030年までに陸域30%、海域30%を健全な生態系、要は本来の自然に戻そうと。でも今、日本では陸域でも20%ほどです。森の多くは植林で、本来の自然には含まれない。もしクマの影響で山に入る人や住む人が少なくなれば、10%増やすには都合がいいかもしれませんね。放置された山々が自然に戻っていくので。もし陸域が30%に増えたら、クマの数も1.5倍に増えるでしょうけど。

――人間が手を入れた場所が、簡単に自然に戻るでしょうか?

坂東:少し手を加える必要はあるかもしれないけど、長いスパンで見ればいつかは戻るでしょう。これは河川の話ですけど、砂防ダムを撤去して、蛇行していた元の形に戻して行こうという取り組みがあるんです。というのも、大洪水は川の経路を人為的に変えたことも一因で。もし川を元の形に戻せば、上流で小さな氾濫が起きる代わりに下流の洪水を少なくできるのではないかと。一方で川が変われば栄養が豊かな河川敷も増えて、動物にとってもっと住みやすい環境ができるかもしれません。

安島:深いですね。『クマ撃ちの女』を描くためにクマのことを調べると、生き物や自然への考え方も変わって。人自体、いろいろ考え直した方がいい時期に来ているのだと感じます。

坂東:日常的に山に入る人でも、自分に関係ないものは意外と見ていないのです。クマを撃つ人はクマの痕跡しか見ないし、シカを撃つ人はシカの痕跡しか見ない。でも、本当はキツツキの巣があればモモンガもいたりと、他の生き物も同様に息づいているんです。そんなふうに広い視野で森の豊かさを感じてもらえたら、人の考え方も変わる気がします。

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記事前編】では、クマが母親から人里での行動を学ぶ仕組みや、近年、人の生活圏を自らの生活圏にしつつある理由を紹介。人の怖さをクマに学習させる方法や、食べ物との結び付きを断つための対策についても語っている。

坂東元(バンドウ・ゲン)
1961年生まれ。北海道出身。酪農学園大卒業後、獣医として1986年より旭山動物園に勤務。飼育展示係として行動展示を担当し、各施設のデザインも手掛ける。2009年から園長を務め、2024年に退任。現在は引き続き動物園の運営に携わる統括園長を務めている。

安島薮太(アジマ・ヤブタ)
1984年生まれ。愛知県出身。大阪芸大卒業後、アシスタントスタッフなどを経て漫画家に。2019年、『クマ撃ちの女』(「くらげバンチ」)にて連載デビュー。入念な取材を積み上げたリアリティと衝撃的な内容で、さまざまなメディアで話題となる。

デイリー新潮編集部

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