数百年後は大出世の可能性も…「日本の軍人」はなぜ台湾で「神様」になったのか 映画「軍服を着た神様」が綴る驚きと“親日ではない”その理由

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一家で「神様になったご先祖様」のもとへ

 日本神とそれを祀る民衆の時間は、台湾だけのものとして流れていった。では、日本ではどうだろうか。映画で紹介される日本神の1人、東龍宮(屏東県)に祀られている北川直征(北川将軍)のもとには、日本から子孫である北川一家が訪れる。ネットで東龍宮の存在を知った子孫が、家系図を手に直接訪問したのが交流のきっかけだった。

「北川家は本当に大喜びなんですよ。忘れていたご先祖様を思い出すことができて、ご先祖様の台湾での最期もわかってきた。神様になって祀られていることも驚きつつ喜んでいますね。北川夫妻には長くお子さんがいらっしゃらなかったんですが、北川将軍から石さん(北川将軍の言葉を伝えるシャーマン。東龍宮を建立した)を通じて『日本に帰ったらできる』と言われて。そうしたら、本当に生まれたんです」

 とはいえ、そこにはズレがある。日本から見ればご先祖様または英霊、台湾から見ると元は亡霊だった神様だ。そのズレを包括して、なおかつ共感をもたらすものとは、「人は死んでも魂は残る」といった東アジアに共通する価値観だという。

「昨年、韓国でこの作品のワールドプレミアをやりました。中国と韓国では上映できないと思っていましたが、行ってみたら韓国の皆さんが目から鱗みたいな感じで『そういうことか』と。韓国人も“ご先祖様をどう扱うか”という点に大きな関心があります。儒教の国だった韓国は“子孫がご先祖様を祀らないとよくないことが起きる”といった観念がより強いので、日本神のことも理解できたようです。そうした東アジアの共感性には、希望を感じましたね」

戸惑いから始まる新たな理解

 日本の試写では“微妙な反応“も見受けられた。

「植民地時代の軍人が神様になっていることを、今の日本人の立場でどう評価すればいいのか、皆さん戸惑うようですね。ただ、そういう戸惑いが生じること自体は真っ当な生理反応かなと。台湾は大いなる異文化であり、他者ですから、そんなにやすやすと理解できないと思うんですよ。だから、その戸惑いをきっかけにして台湾の不思議な魅力をもう少し知ってもらえたら、それは映画として成功だろうと」

 台湾の研究者たちも、日本神の研究に本腰を入れ始めている。歴史的に人とモノの交差点であった台湾には西洋人の神様も存在するが、圧倒的に多いのは日本神だ。

「日台の歴史が重なっていることがその大きな要因ですが、まだまだ汲み尽くせないものがあるので、今後も研究と調査を続けるつもりです。台湾の研究者たちもありふれた陰神のひとつとしてあまり気にしていなかったけれど、僕ら日本人が騒ぎ始めて認識が変わりつつあるようです。ちょっと違った流れが生まれる気はします」

 もちろん、前述の通り日本神たちの修業も続く。

「関帝(関羽)や媽祖といった神様ももとは人間で、数百年経ってから代表的な神様になりました。日本神は誕生してから長くても100年ぐらいですから、200~300年経ったらすごい神様になっている可能性もあります(笑)。生まれたばかりの神様を見ている状況はすごくおもしろいですし、記録に残していく意味も十分あると思うんです」

 生者は死者を尊び、死者は生者たちを結びつける。そして、日本と台湾を再び出会わせる。

『軍服を着た神様』(※黄色部分にリンク https://sansarofilm.com/kamisama/)全国順次公開中
配給:三叉路フィルム (C)2025 SANSARO FILM LLC

遠藤協(えんどう・かのう)
1980年生まれ。日本各地や台湾でドキュメンタリー映画・民族誌映画・文化財映像などを制作する映像記録作家。「三叉路フィルム」代表。記録映像の企画・制作・上映公開・保存継承も手掛ける。

デイリー新潮編集部

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