ちゃんぽんや皿うどんにつぐ名物に? 長崎県松浦市が「アジフライの聖地」を宣言した理由 “揚げたてアツアツ”だけじゃない圧倒的な美味さを裏づける“厳格なルール”

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聖地と呼ぶにふさわしい身質

 全国屈指のアジ生産量を稼ぎ出す長崎県の中でも、突出した水揚げを誇る松浦港。量だけでなく、「質」でも他のアジとは一線を画すと見る向きが多い。日本最大の魚市場、東京・豊洲市場(江東区)の水産卸会社の担当者は「松浦産の中でも、特に対馬沖で獲れる夏のアジは脂が上品で人気がある。長年、寿司店からも好評」と話す。

 こうしたアジの名産地であることを自治体も見逃すはずはない。量・質ともに好条件がそろった松浦港のアジだが、知名度の方はいまひとつ。そこで松浦市は、2019年4月27日、単なる「アジの名所」ではなく、「アジフライの聖地」を宣言。地元自慢の魚を単品料理でPRしようと決めたのだ。

 なぜアジフライなのか。その理由を探るべく、筆者は今年5月中旬の早朝、同港に足を運んだ。現地でアジの水揚げ風景を取材すると同時に、漁港内の食堂で早速、「アジフライ定食」を注文した。

 まず、運ばれてきたアジフライを見て少々面食らった。筆者のイメージとは大分違ったからだ。これまで筆者が食べてきたアジフライは、尾が付いていて扇形のような形状。

 しかし、この食堂のアジフライには尾がなく、ややいびつな形をしている。身を薄く開いて揚げるのではなく、大ぶりな半身をフライにしているのだが思いのほか食べやすい。サクッとした衣に包まれたアジの身は肉厚でふっくら。水揚げ直後のアジなので鮮度は折り紙付きで、アジフライにありがちな苦味や臭みはなく、後味もすっきりしている。
 
 松浦漁港の関係者によると、「作り方は店によって違いはある」といい、県や市内すべての店のアジフライが、「尾なし骨抜き」とは限らないようだ。

“アジフライ憲章”

 松浦市は「アジフライの聖地」を宣言した際、同時にそのルールを定めた「松浦アジフライ憲章」を制定している。その中身は、地元で水揚げされたアジを「ノンフローズン、またはワンフローズンで提供する」ことなどを謳っている。

 通常、アジフライは漁港で水揚げされ、冷凍保存したアジを原料に、衣を付けて再び冷凍するケースが少なくない。アジの主産地であり、新鮮さを売りにするため、同市は生のアジか、せいぜい1度の冷凍で提供するという縛りを設け、高いクオリティーを約束したのだ。

 憲章ではこのほか、松浦アジフライを「こよなく愛しています」「おもてなしの心で提供します」「できるだけ揚げたてアツアツを提供します」といった規定を設け、市内に連携店を増やしている。市内には30店以上の連携店があり、人気は上昇中。県外からも多くの客がやってくるという。

 もちろん、連携店のアジフライは市内に行かなければ食べられないが、憲章に沿ったアジフライは東京でも味わえる。中央区にあるアンテナショップ「日本橋 長崎館」内の「長崎食堂」では、ノンフローズンとはいかないが、松浦港で揚がったアジのフライをワンフローズンで食べられる。

 毎週金曜日限定のメニューで、なかなかの人気。長崎館の佐藤智仁館長は、「近隣の会社員をはじめリピーターは多く、ちゃんぽんや皿うどんに次いで注文が多い」という。梅雨明けして暑いが、さくっとふっくら、今が旬、聖地「松浦」のアジフライをタルタルソースや長崎ご当地「金蝶ソース」で味わうのもいいかもしれない。

川本大吾(かわもと・だいご)
時事通信社水産部長。1967年、東京生まれ。専修大学を卒業後、91年に時事通信社に入社。長年にわたって、水産部で旧築地市場、豊洲市場の取引を取材し続けている。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社)。『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文藝春秋)。最新刊に『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)がある。

デイリー新潮編集部

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