香港で夢の“メイド付きセレブ生活”…「もう日本には戻れない」思っていたのに “1回10万円の占い”に孤独な駐妻が依存するまで

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孤独な環境での占いへの依存

 駐妻たちのお茶会で“紫微斗数を学んでいる”という女性を紹介してもらい、興味本位で話を聞きに行ったことがきっかけだった。占ってもらう日は、まずその女性とランチを共にして、その後の90分ほどが“カウンセリング”の時間となった。「東洋のホロスコープ」ともいわれる紫微斗数は、人生の各時期に何が起こりやすいかなどを細かく占うもの。自分と家族の生年月日や時間、出生地などを女性に伝えると、命盤と呼ばれるチャートを作成してくれ、それぞれの「本質」や「時期」を占ってくれた。

「その人は“お母さんは焦らなくていいですよ。この子は文章の才能がある”と言ってくれたんです。鬱々としたいまの時期も、その才能を伸ばすために必要な時間だと――こう言われて救われた思いでいっぱいになりました。しかも“まだ勉強中だから”と、お試し価格で占ってくれたのもありがたかったです」

 ほんの軽い気持ちから始めた、“占い通い”。しかし奈緒さんは、次第に日々のあらゆる決断や答えを占いに求めるようになっていく。

「紫微斗数だけでなく、風水や八字(四柱推命)、手相などを組み合わせたものにも行ってみました。また当たると有名な風水師や命理師(占い師)の先生がいると聞くと、すぐに紹介してもらったりブログ経由で予約したり、ことあるごとに占ってもらいました。ただ今思えば、それでも家族との関係が劇的に変化することもなく、誰に占ってもらっても心が満たされることはありませんでした」

 夫の仕事で自身もアジアに帯同した経験を持つ心理カウンセラーの前川さんによると、香港では風水師や命理師に人生相談をする文化が根付いており、日本人駐在妻の間でも口コミで評判の先生を訪ねる人は少なくないそう。

「海外生活で家族や人間関係などの悩みに直面したときに、身近に本音で頼れる人がいないケースは少なくありません。ママ友関係はコミュニティが狭いので、噂が広まるのを恐れて家庭の事情などは相談しづらいもの。そのため、家族の気持ちや今後を知る手段として、紫微斗数や風水、八字などの占いに答えを求める方が多いのだと思います」

 評判の命理師ともなると、料金は1回2,500~5,000香港ドル(約5万~10万円)にも及んだ。奈緒さんは彼らに大金をつぎ込み、もらった命盤(生年月日などから作成する運勢表)を熟読し、自宅の風水鑑定も依頼した。だが、それも奈緒さんにとって「どれもピンとくるものではなかった」という。

 気づけば奈緒さんは、日々の判断を占いに委ねる時間が増え、いわゆる「占い依存」に近い状態になっていた。なぜ、それほどまでに深くハマってしまうのか。前川さんはその心理をこう分析する。

「家族や友人との人間関係が思い通りにいかないとき、人はその理由や意味づけをしたがります。そんなとき占いは、非常に分かりやすい役割をしてくれます。『娘さんが今反抗的なのは、そういう星の周期だから』『旦那さんが冷たいのは、ここがこの方位に向いているから』……こんなふうにラベルを貼ってくれるからです。これにより相手のことが分かった気になって、複雑な問題も一気に解決した気になるからです。問題に直接向き合う負担を避けられるのなら、一時的に心が軽くなりますしね」

 香港に、そうした心理を後押しする風土があったことも一因だろう。しかし、占いをエンターテインメントとして楽しむ分には問題ないが、すべての答えを占いに委ねて考えることをやめてしまっては根本的な改善に繋がらず、長期的には逆効果。現実の問題は何一つ解決していないからだ。

「占いそのものが悪いのではなく、奈緒さんの場合は、孤独や不安を埋めるための唯一の拠り所になってしまっていたことが問題でした。占いに頼っている間は、お互いに腹を割って生身の会話をするというプロセスが抜け落ちています。相手を分かった気になってその場はラクかもしれませんが、直接のコミュニケーションを省き続けることは、結果として家族の関係性をさらに薄くしてしまいます。これでは、いざ思いがけない逆境に見舞われたときに、家族が一丸となって乗り越える力を損なってしまいます」

 家族が抱える課題の解決には、やはり当事者同士のコミュニケーションが必要だと前川さんは話す。

「そうしたコミュニケーションの積み重ねこそが、トラブルを乗り越えるために必要な家族の絆を作っていくのです」

 前川さんのセミナーに参加して自分の本心に気づかされた奈緒さんは、占いに過剰に頼る生活を改めた。反抗期の長女や多忙な夫とのすれ違いがすぐに解決したわけではないが、少しずつ相手のことが理解できるようになってきた。現在は「家庭内の対話」を第一に、本音のコミュニケーションを続けている。家族との対話は、占いより時間がかかる。だが、その遠回りが、奈緒さんの家族を少しずつ立て直していくはずだ。

取材・文/荒木睦美

デイリー新潮編集部

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