自分にとっての「普通」が他人にとっては「疎外感」に… 「同性カップルドキュメンタリー」ドラマからみる“無意識の偏見”

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 同性カップルの日常を取材する形で始まったのが「100日後に別れる僕と彼」。

 取材対象の一人は広告代理店勤務の春日佑馬(伊藤健太郎)。大学時代にLGBTサークルに入り、ゲイであることをカミングアウト。両親(戸田昌宏・堀井美香)にも伝えてあり、家族関係は良好。自分から発信することで偏見や差別をなくし、世界を変えたいと話す。その恋人である長谷川樹(いつき/寛一郎)はやや冷めている印象もあるが、映像の中では仲むつまじく見せている。

 この密着取材によるドキュメンタリーを作っているのが、映像制作会社のディレクター・茅野志穂(鳴海 唯)だ。実は志穂の企画ではない。男所帯の会社で唯一女性の先輩・森尚美(野村麻純)の肝いり企画だったが、尚美が産休に入ったため、志穂に託された経緯がある。

 後輩の山田健太朗(山田健人)に撮影を担わせているが、時折天衣無縫な山田の言動に志穂はあきれている。

 佑馬の上司(工藤阿須加)や、大学時代の先輩(光宗 薫)、理解ある両親に取材するも、みな好意的で前向き。

 第1話の終盤、試写の場で社長(竹中直人)のチェックを受ける志穂。理想のキラキラしたゲイカップルを映し出したものを「これがA案です」と言う。なるほどそうきたか。事実は異なる。B案は佑馬の告白から始まる。「撮影が始まったときは既に別れていた」と話す。

 佑馬は後進のために道を切り開きたい。うそでもいいから自分たちがロールモデルとなり、阻まれてきた権利を手に入れられる世界にしたい。そんな強い思いで取材を受けたという。理想的なA案は第1話のみ、その裏側の事実が描かれていく。

 志穂の懸念は樹だ。家族と折り合いが悪く、無職の樹には関係者が少ないため、佑馬メインで優等生的な仕上がりに。しかも佑馬のコメントを険のある言葉で訂正するなど、不穏な態度の樹。「樹はゲイへの差別が原因で失職した」と佑馬から聞いていたので、志穂は深く踏み込めずにいる。一方、山田は樹とフラットに話して、距離を縮めている。

 また、出産した尚美の好意で佑馬と樹を赤ん坊に会わせる撮影をしたが、思わぬ攻撃に遭う。幸せなはずの尚美はワンオペ育児で仕事ができず、孤独感や疎外感に苛まれていた。それどころか、志穂に矛先を向け、呪詛と怒りをぶつけてきたのだ。言葉を失う志穂。

 配慮すること自体が偏見となる場合もあれば、無意識の思い込みで傷ついたり、怒る人もいる。自分にとっての「普通」「当然」が他人には「疎外感」「不快」「怒り」となることも。地雷という言葉で表現されたりするが、それも軽薄過ぎる気もする。

 密着ドキュメンタリーの難しさは、この十数年でテレビが証明してきた。不本意なやらせがあったと対象者から告発されたり、膨大な量の映像を編集して尺の問題をクリアしても「意図的に切り取られた」と詰(なじ)られたり。ドキュメンタリーの作り手につい思いをはせてしまう構図でもある。

 志穂はB案でどうまとめたのか。誰もが思い当たる「無意識の偏見」が課題のドラマには学ぶべき点も多い。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2026年7月2日号掲載

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