子供の数が激減しても「東大合格者数」は40年前と変わらない 定員を減らさないと日本の国力が低下する深刻な事情

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熾烈な競争はそのままでもIQは下がる

 むろん、定員が減っていないのは東大だけではない。京都大学も1990年代前半までおよそ2,500人で推移し、東大と同じく、臨時に定員を増やした期間があった。東大と異なるのは、臨時定員の時期が終わると、学部の増設もあってむしろ定員が2,800人規模まで増えたことである。

 さて、国の予測をもはるかに上回る急速な少子化に対して、どれだけ子供が減っても、東大、京大という最高峰をめざす子供は一定数いるから、東大の難易度が下がることはない、と主張する人は少なくない。そういう声は、たとえば塾関係者のあいだでは多く聞こえる。

 たしかに、その見方にも一理ある。18歳人口の絶対数がどれだけ減っても、東大や京大が狭き門には変わりないから、学力トップ層のあいだで熾烈な争いが繰り広げられる。合格するために必要な学習量も、それをこなすために子供たちにかかる負荷も、おそらく変わらないだろう。

 だが、それは、東大に入学する学生の能力が維持されるのとは別の話である。IQを例に単純化すれば、一般にIQが130以上の人は人口の2.28%といわれる。18歳人口が205万人いれば、4万7,000人いることになるが、67万人の場合は1万5,000人強である。つまり、受験に挑む子供たち一人ひとりにとっては、合格するために学習すべき量や競争の熾烈さには、変化がないかもしれないが、学力トップ層の平均水準は下がらざるをえない。

 仮に東大や京大をめざす層が3万人いるとして、205万人のときはIQが130以上の層が中心になるが、67万人なら、それだけのIQに達している層は半分にすぎない。もちろん、これはあくまでも、わかりやすく計算した場合の数字で、現実とは異なるとはいえ、傾向としてはそうなるはずだ。

 だから、とりわけ大学におけるトップレベルの研究水準を維持するためには、18歳人口の減少に合わせて定員を減らすか、定員を維持するなら、海外からトップレベルの学生の受け入れを増やすか、どちらかしかない。

東大のレベルが下がると日本が強くなれない

 東大に多くの合格者を送り出している中高一貫校の定員も、長年変わっていない。開成400人(高校入学100人含む)、筑波大附属駒場160人(高校入学40人含む)、灘220人(高校入学40人含む)、麻布300人、駒場東邦240人、桜蔭240人、聖光学院225人、栄光学園180人……。

 こちらも中学受験の熾烈な競争は、とくに難関校を受験する場合は、今後もさほど変わらないかもしれない。しかし、トップ層のIQを測れば、平均値は今後、毎年下がっていくしかないだろう。

 東大のホームページには〈東京大学の使命と教育理念〉として、〈国内外の様々な分野で指導的役割を果たしうる「世界的視野をもった市民的エリート」(東京大学憲章)を育成することが、社会から負託された自らの使命であると考えています〉と記されている。平たくいえば、海外での活躍も含めて、日本を引っ張っていける人材を育てる使命を負った大学だということである。その学生の水準が下がれば、長いスパンで考えたときには、国力の低下につながる。

 財務省は2040年までに、大学全体で学部定員を18万人程度縮減する必要があると試算している。私立大学は少なくとも250校、学部定員にして14万人減らす必要があると公表した。10年間で出生数が3割以上も減った急激な少子化を考えれば、当然のことだが、定員を減らす対象は、東大を中心としたトップの国公立大学にまで広げなければならないはずだ。それに合わせ、難関とされる中高一貫校や高校も、定員を減らす必要があるだろう。

 図抜けて能力が高い学生が、同様に、またはそれ以上に能力の高い学生たちのなかで揉まれ、刺激を受けて、能力を伸ばす。そういう環境が失われたら、日本は強くなれない。サッカーと一緒だ。能力が高い選手が世界でも揉まれ、そこからさらに選りすぐりが集まって日本代表としてプレーし、たがいに高め合う――。このまま放っておくと、そのように学べる環境が日本から失われかねないのである。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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