新聞テレビが報じなかった「3億円事件」の人間ドラマ…「週刊新潮」があえて“被害者の肉声”を伝えた理由 「取引先から“東芝のボーナス、持って行かれたぞ”と言われましてね…」

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保険の掛け金は、たった「1万6500円」

 生産部購買課のHさん(35)は、こう語る(記事では実名。以下同)。

〈「事件を知ったのは、10時ちょっと過ぎ。出入りの取り引き先業者から“東芝のボーナス、持って行かれたぞ”といわれましてね。実は10日に出ると思ったんで、8日の日曜日に府中市内で買い物したり食事したり、景気よく使っちゃったんです。ちょっと弱っちゃいましたよ。朝、家を出るとき、家内に“今日はボーナスもらってくるからな”、“ええ、まっすぐ帰ってよ”なんて話したばかりでした。」〉

 別の社員は、朝から千葉方面に出張していたら、〈先方のお得意先がニヤニヤして“たいへんなことですね”というんですよ。“会社へ戻っても、ボーナス出ませんよ。今日は、うちでゆっくりしていきなさいよ”と〉といわれ、急いで戻ることもやめたという。ほかに、

〈若いBGの中には、「昼ごはんがノドに通らなくって、4時ころになって、お腹がすいて困った」という者がいた。〉

 余談だが、この「BG」とは「ビジネス・ガール」の略称。これがアメリカでは“夜の女”のスラングであることがわかり、週刊誌「女性自身」(光文社)の伝説の名編集長・櫻井秀勲さんが、読者公募案をもとに「オフィス・レディ」(OL)を考案、新たに定着させたのである。

 さてさて、さほど大きな混乱が発生することもなく、この日は終わりそうだった。だが、労働組合は、そう簡単に引き下がらなかった。組合幹部の話。

〈「なんとか10日中に支払わせる方法はないかと考えた。東芝で3億や5億の金が揃わぬはずがない。なんとしても支払えということで交渉したわけです。ところが、最終的には事務的に間に合わなくなった。つまり、明細書も一緒に奪われたので、4台のコンピューターをフルに使ってもう一度作り直す。その出来上がりが、どうしても午後3時過ぎになる。それから金を詰めても終業時には間に合わない、ということがわかったわけです。そこで、工場側に、翌日確実に払うことを約束させ、組合員に了解を求めたわけです」〉

 かくして翌11日には、たしかに全従業員にボーナスが支払われ、この事件、東芝府中にとっては、一日だけの“大山鳴動”で終わったのである。

〈失った3億円は、保険金(掛け金は約1万6500円)でそっくり返って来る。ただし、契約会社の日本火災海上によると、「ただ一つだけ保険金が支払われないケースがあります。つまり、銀行の行員さんの中に犯罪に協力したような人がいた場合ですね。これは一銭も払わなくてもいいわけです。そうでない限り、よほど手落ちがあっても支払わざるを得ませんね」(海損部)〉

 保険の掛け金が「1万6500円」だったというのも驚きだ。よく〈3億円事件〉を語るとき、盗まれた3億円は、すべて保険金でもどったうえ、血を流したものもいない、よって、“誰も迷惑を被らなかった大犯罪”などといわれる。たしかにそのとおりだったのだ。

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