「あのちゃん」炎上が示す殺伐としたバラエティ番組の現状 明石家さんまの「ええやないか」精神を伝説のテレビマンたちが語り合った
バラエティ番組発の笑えない事態
本来、笑いながら呑気に見られることを想定して作られているはずのバラエティ番組がきっかけで、人間関係の深刻な問題が発生するケースが続いている。
配信番組で芸人、中山功太が先輩芸人への恨みを匿名で「告発」した一件は、あっという間に対象がサバンナ・高橋茂雄であることが特定され、当事者同士の話し合いの結果、一応円満解決に至った。が、この件で高橋が受けたダメージは大きく、今後の仕事への影響も予想されている。
その騒動が収まった矢先に起きたのが、タレント・歌手のあのが自身の冠番組で「嫌いな芸能人」として鈴木紗理奈の名前を挙げたことに端を発する騒動。鈴木が強い反発をしたことから放送したテレビ朝日は謝罪、あのは不本意な演出を理由に番組降板を訴えるという事態になっている。
この一件が大いに注目を集めている中、バラエティ番組で数々の大ヒットを飛ばしてきたテレビマン2人のトークイベントが開催された(※)。5月22日、東京・四谷の書店YOTSUYA BOOKSのイベントに登場したのは土屋敏男氏と吉川圭三氏。二人とも元日本テレビのプロデューサーで、土屋氏は「進め!電波少年」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!!」、吉川氏は「世界まる見え!テレビ特捜部」「恋のから騒ぎ」等、数々の斬新なヒット番組を世に出してきた人物。2人とも「伝説の」といった言葉と共に語られることも多いテレビマンだ。
「ええやないか」とさんまは言った
昨今のバラエティ番組を取り巻く殺伐とした環境をどこまで意識していたかは定かではないが、この夜、2人が最も熱を入れて語ったのは、明石家さんまの人柄、包容力、人間愛に関するエピソードだ。
『人間・明石家さんま』の著者でもある吉川氏が本に書いていないエピソードとして語ったのは、さんまがよく口にする「ええやないか」という言葉の魅力。ロケに行って手違いで宿泊の部屋が取れず、蒲団部屋しかない。そんな状況を説明するスタッフに対しても「ええやないか」の一言で許してくれた、という。
また、かつての人気番組「さんまのSUPERからくりTV」(TBS系)での「ええやないか」についてはこんなことがあったと言う。番組のレギュラーには当初、TOKIOが起用されていた。事務所側が「さんまさんのトーク術を学ばせてほしい」と言ってきたからだった。
ところが、TOKIOが日本テレビで出演していた「ザ!鉄腕!DASH‼」の放送日と時間が変更になり、「からくりTV」の裏番組になることに。当然、TOKIOは降板しなければならないが、見ようによっては恩を仇で返す振る舞いとも言える。
しかし、その話を聞いたさんまは「ええやないか」と即答した。ゴールデンの時間帯、冠番組を持つのならば結構な話だ、というのだ。
聖人・明石家さんま
「恋のから騒ぎ」他、さんまとの仕事が多い吉川氏と異なり、土屋氏はほとんど一緒に仕事をしたことがなかったという。仕事らしい仕事はたった1回だけ。「NHK×日テレ60番勝負」という開局60周年の記念番組。当時、NHKにほとんど出ていなかったさんまさんに出てもらったら面白いんじゃないか。そう考えた土屋氏が人を介して依頼したところ、生放送で30分枠をくれること、事前告知をしないことを条件に快諾してくれた。
生放送が終わった直後、去ろうとするさんまに土屋氏はこう声をかけた。
「本当にありがとうございました!」
すると後ろ姿のまま、さんまが一言。
「テレビがおもろい事やろうという時に声かけてくれてありがとうな!」
土屋氏はこの時の感激を思い出すと涙が出そうだという。
「『人間・明石家さんま』を吉川さんは書いているけど、僕はあの時以来、『聖人』だと思っています」
とは土屋氏の弁である。
イジリではなく「面白がり」
吉川氏は著書『人間・明石家さんま』の中で、何度となくさんまの人間力について論じている。たとえば次のような文章は、昨今のバラエティ番組関係者にとって示唆に富んでいると言えるだろう。
「さんまはタレントや素人のどんな些細な言葉からも『笑いの芽』を探し出し、そこに的確なツッコミを入れ、話を広げていく。
対面する当人自身が気付かない『ツッコミどころ』というか、『意外と一般的ではないズレ』みたいなものをさんまは拾い上げ、誰より愛でてくれる。よくさんまのツッコミを『イジリ』と表現するネット記事などを見かけるが、私は心外である。あれほど愛に溢れた『面白がり方』のことを、悪意を含んだ響きのある『イジリ』と一緒くたにされては困る。両者はまったく異なるものだ。」
テレビ番組に限らず、ともすればコンテンツの作り手側は、毒や悪意が新しさや刺激につながると捉えがちだ。しかし、さんまの衰えぬ人気の背景には、「ええやないか」に象徴される寛容さ、周囲への愛の深さがある、という2人の指摘に耳を傾けてもいい時期が来ているのではないか。
※【『人間・明石家さんま』(新潮新書)刊行記念】たけし、さんま、所、欽ちゃん、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン……テレビ黄金時代のすごい人たちと、これからのテレビを語る夜。(5月22日・YOTSUYA BOOKSにて。イベント動画も配信中)










