秀吉と秀長は「戦国時代では異例の関係」「二人の女性関係は正反対」 『豊臣兄弟!』を楽しむための七つの視点を専門家が解説

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信長には平身低頭

 さて、いよいよ7番目となったが、最後に、ドラマの描写が史実と異なる点を指摘しておきたい。

「豊臣兄弟!」では、信長臨席の評定(会議)で、重臣たちがすぐに立ち上がったり刀を抜いたりするが、自身の権力の絶対性を誇示しようとした信長の前で、そんな態度が許されたとは考えられない。フロイスは岐阜城を訪問したときのことを、こう書いている。

〈彼が内から一人を呼んだだけでも、外で百名がきわめて抑揚のある声で返事しました。(中略)都では大いに評価される公方様の最大の寵臣のような殿も、信長と語る際には、顔を地につけて行うのであり、彼の前で目を上げる者は誰もおりません〉

 もう一つは戦闘場面である。例えば姉川合戦でも、みな刀を抜いて突進していたが、武将たちにとって刀とは、むしろ強い生命力がこもる祭祀(さいし)の道具で、戦場で使われるのは弓矢や鉄砲でなければ、長い柄があるやりが中心だった。

 刀が抜かれるのはよほどの接近戦で、それも主として短い脇差しだった。相手との組み討ちで、よろいのすき間から突き刺したり、仕留めてから首を切り落としたりするのに使われた。

 刀を抜いてのチャンバラは、近代に考案されたフィクションなのである。

 秀長や秀吉、信長らの実相を知るほど、ドラマの味付けをいろいろな角度から堪能できるだろう。史実と違う点を知るのも悪いことではない。「違う」とケチをつけるのではなく、「あれ、本当は違うんだよね!」などと言いながら、フィクションならではの迫力を味わえば、楽しみが増すのではないだろうか。

香原斗志(かはらとし)
歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。日本古代史から近代史まで幅広く執筆し、特に戦国時代精通する。ヨーロッパの歴史や文化にも通じ、オペラを中心にクラシック音楽の評論家としても知られる。著書に「教養としての日本の城」(平凡社新書)、「お城の値打ち」(新潮新書)など。

週刊新潮 2026年5月7・14日号掲載

特別読物「大河ドラマ『豊臣兄弟!』が10倍楽しくなる『7つの視点』」より

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