「酒もタバコもやらないのに…」 心筋梗塞になった血管外科医が明かす「油断」 「毎日のように肉や甘い物を」
リスクを抱えていたのに、ほったらかしに
あの日、深夜以降続いた不快な胃の鈍痛からさかのぼること1年。私はCTアンギオという検査で心臓の血管の石灰化を指摘されていた。これは造影剤の点滴だけで、冠動脈を描出できる検査だ。石灰化とは血管が老化で硬くなることを指す。動脈硬化が進んでいるサインであり、血管が詰まりやすくなる危険信号とされる。しかも心臓の筋肉に血液を送る冠動脈にそれが見つかった。
冠動脈が詰まると、心筋に酸素が届かなくなり、心臓が壊死する。それが心筋梗塞だ。石灰化はそのリスクを高めることになり、脳血管障害や脳卒中、脳梗塞を引き起こすこともある。脳血管に異常がある場合、MRAという血管を見る画像検査で分かる。心筋梗塞の場合、CTアンギオだけでは、石灰化がある血管の狭さが判断できないため、カテーテル検査を勧められていたが、検査には入院を要するため、恥ずかしながらほったらかしていた。
さらに30年以上前には、家族性高コレステロール血症との診断も受けていた。耳慣れないこの疾患は、生まれつきLDL(悪玉)コレステロールが高くなる遺伝性の脂質異常症を指す。健康な人と比べ、動脈硬化が進みやすく、心筋梗塞や狭心症のリスクも高い。30歳で初めて受けた血液検査で診断されていた。余談になるが、専門医に言わせると、家族性高コレステロール血症の患者さんのアキレス腱は太い傾向にあるそうだ。
心筋梗塞のリスクを高める要因は他にもある。高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満、喫煙……。こうした生活習慣病と言われるリスクファクターが重なるほど、危険は増す。私の場合、心臓の冠動脈の石灰化と家族性高コレステロール血症という二つのリスクを抱えながら、1年もの間、なんの処置もしなかった。具体的な症状がなく、治療に重い腰が上がらなかったからだ。
「これは心臓かもしれない」
心筋梗塞をはじめ、脳血管障害や足の閉塞性動脈硬化症などの血管の病気には、運動療法が有効であるという医学的知見を持ち合わせていたのも大きい。ウォーキングなどの運動を続けることで、詰まった血管の代わりに側副血行路という迂回(うかい)路となる血管が発達する。だから手術をしなくても、運動さえしていればなんとかなる。そう高をくくっていた。血液をサラサラにするバイアスピリンも服用していた。これらが全く無意味だったわけではない。言い訳に聞こえるかもしれないが、ある程度側副血行路が育っていたおかげで、即、救急車で運ばれる事態を免れたと思っている。
しかし振り返れば、週に1度、ゴルフに行き、小走りで1万8000歩程度。毎日、クリニックへは車で通勤し、ほとんど歩かず、運動習慣がない日々だった。1日の歩数はスマートフォンで確認すると1000歩に満たない日もあった。週に1回まとめて運動しても、焼け石に水だったのだろう。ただし、酒もタバコもやらなかった。それも救いだったのかもしれない。
話を発症した日に戻すと、どうにかクリニックにたどり着いた時点で、「これは心臓かもしれない」という思いに襲われた。以前、心筋梗塞や狭心症の急性期にはバイアスピリンの量を増やすと効果があるとなにかで読んだことがあった。すぐさま数錠をかみ砕いて喉に流し込んだ。さらに、血管外科医という職業柄、クリニックには血液をサラサラにするヘパリンの注射薬が常備されている。それを自らに打った。一般の方にはできない対処だが、功を奏したのか、程なく痛みが和らいだ。その日は自宅に戻るまでに回復し、なんとかやり過ごした。
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