「国宝」の2時間55分はまだ短い! 5時間10分の超大作オペラ映画「トリスタンとイゾルデ」 長くて危険ながら“圧倒的な鑑賞体験”

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ワーグナー初心者は、まず“体験テスト”を

 では、いったいどんな物語なのでしょうか。ひとことでいうと、映画「国宝」にも登場した「曽根崎心中」のような、“道行き”(心中)ものです。

 舞台は、伝説時代の中世ヨーロッパ。アイルランドの女王イゾルデが、不本意ながらコーンウォール(イングランド南西部)のマルケ王のもとへ嫁がされます。その嫁入り道中で、かつて自分の婚約者を殺したトリスタンと出会いました。すわ仇討ち! と毒薬を呑ませます。さらに、自分もイヤな男と結婚させられるくらいなら死んだ方がましだと、一緒に毒薬を呑んで自殺をはかります。ところが、それは毒薬ではなくて、「惚れ薬」だったのです。2人は、たちまち強烈な恋に落ち、「愛の死」に共感をおぼえるようになります。マルケ王は、面目丸つぶれ。事態は混迷化し、最終的にトリスタンは暗殺。イゾルデもあとを追い、ラストでは「宇宙と一体となって」昇天します。

 もちろん実際は、もっと複雑な話なのですが、大筋は上記のとおりです。それでも、ワーグナー未体験だと不安をおぼえるでしょう。その場合は、まず、この作品にご自分が向いているか、事前に“体験テスト”を受けておくことを、お勧めします。

 それは、このオペラの抜粋音楽《前奏曲と愛の死》を聴くことです。第1幕の前奏曲と、第3幕のラスト部分をつなげ、声楽を抜いて1曲にまとめた管弦楽曲で、18分くらいです。YouTubeに山ほどの音源や動画がありますから、いますぐ聴けます。

 なぜこんな楽曲があるのかというと、なかなか初演が実現しないので、自信家のワーグナーが「こんな素晴らしい音楽を、キミたちは聴きたくないのかね」と、聴きどころをダイジェストして、“試演”したのです。これが実によくできていたので、いまでも独立した楽曲として演奏されています。

 まず、これを聴いてみてください。なにやら不安定なモヤモヤ和音ではじまり、切れ目があるようなないような、盛り上がるけれど頂点がこなくてジリジリさせられるような音楽です。これに「快感をおぼえる」ようでしたら、「5時間10分」など、あっという間です。

 逆に、「こんな音楽、耐えられない」という方は、やはり全編はしんどいと思います。無理にお薦めしません。ただし、大スクリーンの圧倒的サラウンド音響とYouTubeとでは、“提灯に釣鐘”ほどの差があります。YouTubeでは、ホンモノに触れたことにはなりません。その点はご承知おきください。

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