キャリアを捨て夫のタイ赴任に同行…「現地で子を授かれれば」 アラフォー駐在妻を待っていたのは“残酷な線引き”だった

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 駐在妻とは、夫の海外赴任に同行する妻のこと。駐妻は一見、華やかそうなイメージがあるが、実はさまざまな問題を抱えるケースも多い。実母も駐妻であり、自身も駐妻を経験した、臨床心理士で公認心理師の前川由未子さんは、そういった「まわりに理解されづらい駐妻問題」専門のメンタルカウンセラーだ。前川さんが相談を受けた事例から、駐在生活にまつわるさまざまなトラブルや実態を紹介する。

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 物流会社に勤務する夫・紀之さん(仮名、37歳、以下同)のタイへの赴任に伴い、現地へ帯同することを選択した妻の彩さん(38歳)。それまでは共働きで家計を支えていたが、渡航を機に勤めていた会社を退職した。

「キャリアを捨てるのは痛手でしたが、年齢を考えると妊娠適齢期の猶予が少なく、夫と離れて暮らす選択肢はありませんでした。赴任と自身の年齢を考慮すると、キャリアや帯同の有無について、自分の意志というよりは、外軸で決まってしまった感覚があり、選択の幅が狭まってしまったのは辛かったです」(彩さん、以下同)

 海外生活という限られた時間の中、退職してまで選んだ道でなんとか授かることができれば――。そんな祈るような思いを抱えて、彼女は一路、タイへと渡った。

言葉の壁と見通しの持てない不安

 妊活の第一歩として始めたのは、クリニック探し。タイは不妊治療の先進国といわれ、海外からも多くの患者が訪れる。

「ネットの限られた情報から手探りで実績や通いやすさを調べ、不安の中で手続きを進めました。日本語通訳が常駐している病院を選びましたが、やはり言葉の壁は厚かったです。医師との密な信頼関係が重要な不妊治療において、細かいニュアンスが伝わらず、『今この進め方でいいのか』『この検査は本当に必要なのか』と、常に先行きが見えない不安がつきまといました」

 日本でタイミング法を試していた彩さんは、現地で人工授精からスタート。思うような結果が出ず焦りが募る中、身体的・金銭的負担の大きい体外受精へのステップアップを決意した。体外受精などの場合、受精卵の移動ができないため、いつ帰任命令が出るかわからない駐在生活において、その決断には大きな不安があったという。

 祈るような思いで臨んだ初回で待望の妊娠を果たしたが、妊娠3か月のとき、流産という過酷な現実が彼女を襲った 。

「ようやく授かったのに、何がいけなかったのかと自分を責めては涙する日々でした。どうして私だけ、と周りを羨む気持ちも抑えられませんでした」

流産したら自己負担。冷酷な線引きが追い打ち

 心身ともにボロボロになった彼女をさらに追い詰めたのは、夫の勤務先の保険規定だった。

 日本国内では、2022年から不妊治療が保険適用となったが、この時はそれ以前。また、海外派遣中の出産にかかる諸費用の支援は、企業によって対応が大きく分かれているのが実情。紀之さんの会社では出産費用には支援があり、不妊治療は補助対象外だったのだが、彩さんが絶望したのはその後の対応だった。

「流産した途端、それまでの妊婦検診費用が全額自己負担になるという規定を突きつけられました。金額そのものよりも、心身ともにボロボロの状態だった私たちにとって、その事務的な線引きはあまりにも容赦がなく、残酷なものに感じられました」

 当時は、「不妊治療は自腹」と割り切れていた部分もあった。しかし、この思いやりのない「追い打ち」が彩さん夫婦を深く傷つけたのだった。

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