キャリアを捨て夫のタイ赴任に同行…「現地で子を授かれれば」 アラフォー駐在妻を待っていたのは“残酷な線引き”だった
医師によって価格がバラバラの自由診療
タイをはじめとする海外の医療事情は、日本とは根本的に異なる。自身もタイでの生活、出産経験を持つ心理カウンセラーの前川さんによれば、「タイの私立病院では、医師が個人事業主のように病院に集まっており、診察代を医師が自由に設定できるケースが多い」という。
「同じ妊婦検診でも、数千円で済む医師もいれば、1回3万円を請求する医師もいます。最新の4Dエコーを備える医師もいれば、いまだにお腹に聴診器を当てて音を聞くだけの医師も。質のバラツキが激しく、信頼できる先生を選ぼうとすれば必然的に高額な費用が発生します」(前川さん)
結果として、手厚い保険でカバーされる恵まれた層がいる一方で、不妊治療や妊婦健診の費用を自腹で賄わなければならない層も存在してしまう。
偏ったコミュニティの中での孤立
さらに駐妻たちを苦しめるのが、海外特有の日本人コミュニティという限定的な人間関係だ。タイの日本人社会は、人数的に子連れ世帯で、かつ仕事を持たず育児に専念する層が圧倒的な多数派を占める。
「未婚の方、子なし夫婦、あるいは仕事に専念している方の割合が、日本での生活に比べて極端に少ないと感じました。その偏った環境の中で、なかなか子どもができない自分を否定的に捉えてしまう機会が多かったです」(彩さん)
また、不妊治療は非常にデリケートな問題なため、日本にいる時と同様、現地でも周囲に相談できる相手はほとんどいなかった。彩さんは当時、当事者同士のピアグループ(互助会)に参加したこともあったが、専門家が関与しない場だったために、心ない言葉でかえって傷つく経験もしたという。
後悔しないために
前川さんは、赴任の辞令が出た際に、保険がどこまでカバーするのか、流産時の対応はどうなるのかを事前に調べるべきだと指摘する。また、家族計画について夫婦でしっかり話し合い、納得感を持って進むことが不可欠だと話す。
彩さん夫婦は、その後2年半の駐在を終えて帰国。ほどなくして自然妊娠で赤ちゃんを授かった。現在は、自らの経験を活かし、不妊で悩む人のために、専門性と安全性の高いコミュニティを作れないかと模索中だという。
キャリアを中断し、夫を支えるために海外へ渡る駐在妻たち。彼女たちが、企業の制度の歪みの犠牲となり、悲しい思いをすることがないように。企業側の柔軟な制度の見直しや、家族間での深い対話が求められている。
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