話題の「年収1000万のタクシードライバー」はごくわずか…日本で「ブルーカラー・ビリオネア」が誕生しない“当然の理由”
出遅れた「3Dプリンタ」
実際、自動車関連の金型研磨を生業とする父の工場に身を置いていた筆者は、同時期、その雰囲気を経験している。それは2000年代、製造業界の現場を驚愕させるものが商品化されたこと。
「3Dプリンタ」だ。
3Dプリンタとは、立体の造形物を出力(プリント)する装置のこと。簡単に言えば、金型なしでプラスチック製品ができる3次元プリンタだ。一般的にプラスチック製品は、金型の凸と凹を組み合わせ、その間に樹脂を流し込み作られる。
日本の基幹産業でもある自動車製造の現場には、バンパーやライト、グリルにインナーパネルなど、多くのプラスチック製品が使用されていた。もし、この3Dプリンタが本格的に動き始めたら、金型業界は潰れるかもしれない――。
その時の業界に漂っていた「自分たちの職が奪われるかもしれない」という警戒感は今でも忘れられない。金型がなくとも製品が作れる3Dプリンタは、業界にとって「パンドラの箱」でしかなかった。
実は、この3Dプリンタの初期の開発者は日本人だ。しかし、こうしたマンパワーの代替物への懸念によるスタートダッシュの失敗が、今の日本のものづくりの低迷に繋がっていると、現場にいた身としては痛感するのだ。
事例に上がる「タクシー」の現状
話を「ブルーカラー・ビリオネア」に戻そう。
デジタル化・AI導入の遅れが、日本での「ブルーカラー・ビリオネア」誕生のストッパーになっているという現実があるなかで、頻繁にこの言葉を聞くようになった昨今……。
なかでもここ数年で、伸び率が高い職業としてよく引き合いに出されるのが、「タクシードライバー」だ。タクシー業界は間違いなく、上向きの業種ではある。しかし、これを「ブルーカラー・ビリオネア」として語るのは、完全なミスリードだ。
タクシードライバーのピークは、2004年の約42.8万人(法人所属38万1943人、個人4万6360人)。そこから人口減少に伴い、ドライバーも2009年以降、毎年3~4%の割合で減少を続けていたが、2020~2021年のコロナ禍においては、7%を超える減少率となり、直近の2019年からは17%減(企業所属ドライバーにおいては約18%減)となった。
それは、各メディアが論拠にしているドライバーの数や売上に対する伸び率は、「コロナ禍」が元になっているからだ。
しかし、コロナが明けるとインバウンドが急回復。コロナ前以上になり、ホワイトカラー業界によるAIの台頭というよりも、インバウンドの急回復が要因だと言えるだろう。
さらに、元々タクシードライバーは低賃金のイメージが強い。2002年、タクシー業界の規制緩和が行われ、需要と供給のバランスを考慮した免許制だったのが、車庫の確保など一定の条件さえ満たせば自由に新規参入できる許可制になった。こうして無制限なタクシー企業の増加を招いた結果、乗務員の給料は低下したのだ。昨今の好況においても、他産業平均給与よりまだまだ賃金は低い。
一方、一部で「年収1000万円以上稼げている」というドライバーの声を報じるメディアもあるが、その裏には「地域差」が存在する。
例えば、一般社団法人「全国ハイヤー・タクシー連合会」のデータによると、令和5年の東京都のタクシードライバーの平均年収は586万円。一方、石川県のタクシードライバーは230万円と、300万円以上もの差がある。タクシードライバーの平均年収の上昇が取り上げられているのは、大都市や観光地の好況であり、全体を反映していないのだ。
なかには、逆に年収が減少した地方も存在し、高齢化と相まって、この1年間でも多くの退職者が出ている地域も。
人手確保のため、タクシー企業の中には、今までよりも高い賃金を提示したり、入社時の祝い金や免許取得の補助金を出していたりするところも実際ある。しかし、コロナ禍で絶望的な状況にあったところからの回復をもって「ブルーカラー・ビリオネア」の代表例とするのは、あまりにも現実との乖離があるのだ。
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