アカデミー賞で話題の映画「ハムネット」に、幻の「新作」刊行も…没後410年を経て世の中を騒がせる「シェイクスピア」の魅力

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エリザベス朝「黒い報告書」

 シェイクスピアのほかの作品同様、本作もネタ本があるようで、おなじ話が当時の「年代記」に記されているという。

「舞台はロンドンから80キロ近く離れた地方都市ファヴァシャム。この地の紳士アーデン氏の妻アリスは、モズビーという若い男と不倫関係にあります。この2人が、じゃまになったアーデン氏を殺害する話です。ところが、なかなかすんなりとは殺せず、そのあたりは、ブラックコメディのようでもあります。しかし最終的にアーデン氏は殺され、アリスやモズビーも逮捕され、死刑となります。因果応報の教訓を説いたとも読めますが、演出次第では、喜劇風にもなりそうで、いろんな解釈ができる芝居です」

「アーデン」と聞いて、シェイクスピアのファンなら、ピンとくるだろう。『お気に召すまま』には「アーデンの森」が登場する。シェイクスピアの母親の旧姓も「アーデン」だった。また、豊富な注釈と現代英語表記で編纂された全集シリーズ〈アーデン版シェイクスピア〉などもある。

「ところが、この芝居は実在の事件を、ほぼそのまま劇化しており、人物名もほとんどが実名。実際の被害者はファヴァシャムの元市長、トマス・アーデン氏です。つまり現実の殺人事件がリアルに舞台化されたわけで、まさに週刊新潮の人気連載『黒い報告書』もかなわないストレートな芝居でした。おそらく当時の観客は、びっくりしたでしょう。現に河合先生の解説によると初演は好評で、これを機に家庭内殺人事件を描く模倣作が続出したそうです」

 さすがに初めて文庫に収録された“新作”ということで、河合氏の解説は、実に読み応えがある。注釈も微に入り細を穿つ内容だ。

「実は、この“新作”が、『ファヴァシャムのアーデン殺人事件』と題し、11月に東京・調布市せんがわ劇場で、日本初演される予定なのです。河合先生自らが演出するKawai Projectシリーズの一環です。ある意味、2026年の日本演劇界、最大の話題作といえるのではないでしょうか」

 映画では名作『ハムレット』の誕生秘話が描かれ、舞台では幻の作品『アーデン』が日本初演される――逝って410年たつというのに、シェイクスピアは、まだまだ、わたしたちを楽しませてくれるようである。

森重良太(もりしげ・りょうた)
1958年生まれ。週刊新潮記者を皮切りに、新潮社で42年間、編集者をつとめ、現在はフリー。音楽ライター・富樫鉄火としても活躍中。

デイリー新潮編集部

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