アカデミー賞で話題の映画「ハムネット」に、幻の「新作」刊行も…没後410年を経て世の中を騒がせる「シェイクスピア」の魅力
〈正典〉37作に、新たに加わった“新作”とは
シェイクスピア関連の“不思議な本”、もう一点は、角川文庫、3月の新刊『新訳 タイタス・アンドロニカス/ファヴァシャムのアーデン』である。シェイクスピア学者で、『謎ときシェイクスピア』(新潮選書)などで知られる東京大学教授(この3月で定年退職)の河合祥一郎氏が手がけている新訳シリーズの最新刊だ。“不思議”なのは、後者の『アーデン』である。ふたたび、シェイクスピア好きな編集者の話。
「シェイクスピアが生涯に書いた芝居は、一般に37作といわれており、それらは〈正典〉(キャノン)と呼ばれています。この『アーデン』は、『タイタス』とおなじ版元が刊行しており、作者名がないものの、次第にシェイクスピア作ではないかとの声が出はじめました。すでに1970年代から、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが舞台上演していますが、あくまで作者不明作品としての上演でした」
角川文庫の訳者あとがきに詳しいが、2000年代に入ってコンピューターによる分析がはじまり、ついに2016年の「新オックスフォード版シェイクスピア全集」に、正式におさめられた。
「本国の全集に加わったわけですから、これでシェイクスピア作品は、全部で38作となったわけです。いままで37作の正典すべてを単独翻訳したのは、坪内逍遥、小田島雄志さん(白水社Uブックス)、松岡和子さん(ちくま文庫)の3人です。このままいけば、おそらく河合先生は、日本で初めて38作全作を翻訳したひとになるでしょう」
実は『アーデン』は、東京経済大学名誉教授・川井万里子氏によって、2004年に邦訳が刊行されている(成美堂刊)。ただし、表紙には「エリザベス朝 家庭悲劇」「作者不詳」と明記されていた。これに対し、今回の河合新訳は、シェイクスピア特有の原文の韻や響きにこだわり、日本初の「舞台上演台本」として翻訳されている点が画期的だ。
さてさて、そんなシェイクスピアの“新作戯曲”『ファヴァシャムのアーデン』だが、いったい、どんな芝居なのだろうか。
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