アカデミー賞で話題の映画「ハムネット」に、幻の「新作」刊行も…没後410年を経て世の中を騒がせる「シェイクスピア」の魅力
感動的な映画のクライマックス
「混乱するアグネスは、我慢できずにロンドンまでその芝居を観に行きます。当時、住んでいたストラトフォード=アポン=エイヴォンから、185キロも離れたロンドンへ、女性が芝居を観に行くなど、ありえないことです。しかし著者オファーレルは、小説のなかで、アグネスを馬に乗せ、3日かけてロンドンまで行かせるのです。ここでアグネスが初めて出会う大都市ロンドンの描写は見事で、17世紀初頭のこの町の匂いまでが伝わってくるようです」(前出・編集者)
果たしてアグネスが観た『ハムレット』とは、どういう芝居だったのか。〈夫〉は、死んだ息子の名を、どこに、どのように使ったのか……。
「ラスト約10ページは、圧巻としかいいようがありません。特に、芝居『ハムレット』をご存じの方は、涙がにじむと思います。映画館でも、このラスト部分では、すすり泣きが聞こえました」(同)
その映画「ハムネット」(クロエ・ジャオ監督、2025)は、2026年の米アカデミー賞に8部門でノミネートされ、アグネスを演じたジェシー・バックリーが主演女優賞を受賞した。映画ジャーナリスト氏の話。
「正式刊行前のバウンドプルーフ(試読本)で原作小説を読んだプロデューサーのリザ・マーシャルが、すぐに映画化権を獲得しました。サム・メンデス、スティーヴン・スピルバーグといった人気監督をプロデューサーに迎え、脚本・監督は、2020年の『ノマドランド』で、米アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞(フランシス・マクドーマンド)の3冠受賞を達成した、クロエ・ジャオが起用されました。原作者オファーレルも脚本に参加しています」
この映画は、昨年秋の東京国際映画祭でクロージング作品に選定され、上映後は拍手喝さいとなった。
「17世紀初頭のイギリスの地方や、ロンドンの芝居小屋などが見事に再現されており、特に、気が強いながら、どこか神秘的なおもむきのあるアグネスを、ジェシー・バックリーが見事に演じています。彼女は、米アカデミー賞主演女優賞を受賞しましたが、クロエ・ジャオ監督作品から2人目の主演女優賞となったわけで、ジャオ監督の名伯楽ぶりも話題となっています」
先述のように、アグネスがロンドンまで行って『ハムレット』を観るクライマックスは、圧倒的な感動を呼ぶ。
「ここで、マックス・リヒターの楽曲《On the Nature of Daylight》が流れます。この曲は、すでにいくつかの映画で使用されている有名曲ですが、まるでこの映画のために書かれたと思えるほどピッタリ合っているので、ちょっと驚きました」
シェイクスピア本人が登場する映画といえば、米アカデミー賞で作品賞など7部門を受賞した「恋におちたシェイクスピア」(ジョン・マッデン監督、1998)が有名だ。最近では劇団四季が舞台上演している。
「そのほか、シェイクスピアの晩年を描く『シェイクスピアの庭』(ケネス・ブラナー監督、2018)は、息子ハムネットの早世が断筆につながったとの設定でした。『ハムネット』とあわせて観ると、またあらたな感慨をおぼえると思います」
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