「回転ずし店で走り回った子どもが注意されてショック!」が議論に 「あさイチ」出演で話題のアカデミー賞ノミネート監督の見解は

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はま寿司での出来事で炎上

 日本と海外の教育、子育てをめぐる環境の違いは常に注目度の高い話題である。最近では、ニューヨーク在住の日本人女性が日本に帰国して体験したことへの違和感をX上に投稿し、大いに話題を呼んだ。

「NYこりんごラジオ(50歳からの育児)」の名前でブログやYouTube、Xで発信しているこの女性は、自身のプロフィールによれば、49歳で出産し、現在は2歳の息子をニューヨークで子育て中だという。動画には愛らしいお子さん共々モザイクなしで出演している。

 話題になったのは4月初旬の投稿。帰国中、一家で回転ずしチェーン「はま寿司」に出かけたところ、息子が落ち着かず走り回った。すると年配の女性に「うるさい!ここは走り回るところじゃない!食べるところだ!」と怒鳴られたのだという。

 これを受けて「NYじゃ2歳児にそんな風に怒鳴る人いなかったからビックリした。日本で子育ては無理かもしれないと思った瞬間だった」と彼女は振り返っている。

 この投稿に対する反応はかなり彼女に厳しいものが目立つ。「日本では日本のルールに従うべき」「NYでもどこでもレストランで子どもを走り回らせるのは迷惑、アウト」等々。ブログで詳細な経緯を説明し、決して日本を批判しようとしたわけではない旨を述べたものの、炎上に近い状況を招いてしまったのである。

 もともとネット上では、「海外ではこうなのに日本はこうだからダメ」式の日本を批判する主張は反発を買いやすく、炎上につながりがちだ。「出羽守(でわのかみ)」などと揶揄されることもある。今回もそのケースと言えるだろう。

欧米と日本で教育を受けた山崎エマさん

 子育てや教育に関してよく見られるのは、「日本の教育は個性を押し殺す」「こんな教育をしているから日本はグローバル人材を育てられない」というタイプの批判だろう。海外で教育を受けた、あるいは子どもを育てた経験を持つ人が実体験をもとに、そうした意見を述べることも珍しくない。

 その意味では、ドキュメンタリー監督の山崎エマさんは少し独自のポジションだと言えるだろう。イギリス人の父と日本人の母の間に生まれた山崎さんは、日本とアメリカ、イギリスで教育を受けた経験の持ち主だ。6歳で親元を離れてイギリスの小学校に通い、その後大阪の公立小、神戸のインターナショナルスクール、アメリカのニューヨーク大学へと進学し、各国の多様な教育を受けてきた。公立小学校を長期取材した最新作『小学校~それは小さな社会~』は、短編版が米アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門に、長編版が「テレビ界のアカデミー賞」と言われる米エミー賞にそれぞれノミネートされるなど、世界を舞台に活躍している山崎さん。今月16日にはNHK「あさイチ」にも出演し話題となった。

 自身が受けてきた教育をもとに山崎さんが執筆した著書『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』には、タイトル通り、各国の教育を体験したうえで、なぜ彼女が日本の教育を否定せず、それどころかかなり肯定的に捉えているかが詳述されている。

 よく指摘される通り、欧米と比べると日本の公教育では、規律や協調性を求める傾向が強い。最初にイギリスの小学校に通った山崎さんも、それに戸惑うことは多々あった。それでも彼女はアメリカの大学で映画を学び、スタッフとして現地で働く際、日本で身につけたことが武器になったと強く感じたのだという。

 一体それは何か? 以下、同書をもとに見ていこう。

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日本の「当たり前」が武器になった

 山崎さんは大学で、サム・ポラードさんというアメリカの映画界を代表する編集者、ドキュメンタリー監督のもとで編集を学び、その面白さの虜になる。カメラや照明を学んでいる時には感じられなかった魅力を感じたようだ。

 幸いなことに卒業後は、そのサムさんに編集助手として雇ってもらうことができた。その助手期間を経て山崎さんは、制作会社の編集スタッフとして仕事をすることになる。

 当時、彼女はこのように考えていたという。

「組織の中で働く以上、社会人としてきちんとした振る舞いをしよう」(『それでも息子を日本の小学校に通わせたい』より、以下同)。

 具体的には、「出勤時間に遅れない、責任を持って与えられた役割をまっとうする、他の制作チームと協力し、少しでも良い物を作るために自分のベストを尽くす」といったことを心掛けた。これは彼女にとっては特別なことではなかった。

 しかし、この姿勢が、周りのアメリカ人から驚くほど褒められたのだという。

「エマを見習おう。時間に遅れないし勤勉だ。周囲への配慮があって、責任感も強いのに自己中心的ではない」

 山崎さん自身は、日本ではそう珍しくない振る舞いだったと振り返り、こんな風に感じていたと述べている。

「特別なことではないのにここまで評価されるとは、なんとお得なことだろう」

 そのうえで山崎さんはなぜ自分がそういう振る舞いを自然とできるようになったのかを考えた。最初に浮かんだのは働き者だった両親、特に高校で教師を務めていた母の姿だったという。

 それに加えて大きな影響を与えてくれたものとして挙げるのが、「日本の小学校教育」だ。

「頑張って何かを達成することがもたらす充実感、仲間と力を合わせることの重要性、誰かの役に立つ喜び。これらは子どもの頃に覚え自分の人格のベースとなったのだと思います。

 加えて、子どもの頃からのヒーローであるイチロー(選手)の生き方や言葉にも影響を受けました。『継続は力なり』『努力を惜しまない』『苦しまないと上にはいけない』。イチローから学んだ思考法が自分の中に深く根付いていたのです」

 こうした真面目さは大学時代、裏目に出ることもあった。生真面目な人を茶化しがちなのは、洋の東西を問わない。ところが社会人になった途端、こうした日本的な思考や行動が評価され、周りの同世代のアメリカ人よりも良い評価を得ることに繋がったのだという。

「忘れかけていた、むしろあえて捨てようとしていた自分の『日本的な要素』が強みになっていたことに気づきました」

 山崎さんは決して日本の教育を全面的に賞賛しているわけではない。しかしともすれば欧米と比較して劣っていると言われがちな日本の小学校教育の良い面に日本人が気づくヒントを与えてくれている。

山崎エマ(やまざき・えま)
1989(平成元)年生まれ。イギリス人の父と日本人の母を持つ。ドキュメンタリー監督。ニューヨーク大学映画制作学部卒。最新長編『小学校~それは小さな社会~』(2024年)は米エミー賞最優秀政治ドキュメンタリー部門に、短編版の『Instruments of a Beating Heart』は米アカデミー賞短編ドキュメンタリー部門にそれぞれノミネートされた。

デイリー新潮編集部

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