AI作品も応募可能な「星新一賞」が話題! 生誕100年で次女が明かす「父・星新一」の素顔と、“ボッコちゃん”だけじゃない「魅力的な女性キャラ」ベスト5
泣かせる長編ファンタジー
――なるほど。では、3人目は?
「『ブランコのむこうで』の、マリオくんのママです。これは、父には珍しい長編ファンタジーで、しかも“泣ける小説”です。父は、こういうタイプの小説は、あまり書いていません。いままでショートショートしか知らなかった方に、ぜひ読んでいただきたい作品です」
――これは、記録を見ると、1971~73年の間に、10冊だけ出た、書き下ろし「新潮少年文庫」のなかの一点ですね。ほかに三浦哲郎さんの「ユタとふしぎな仲間たち」、水上勉さんの「蛙よ、木からおりてこい」(のちに「ブンナよ~」に改題)、そしてNHKでドラマ化された新田次郎さんの「つぶやき岩の秘密」など、そうそうたる名作が並んでいます。
「その時のタイトルは『だれも知らない国で』でしたが、のちに『ブランコのむこうで』と改題されました。これは、他人の夢のなかに入り込んでしまう、〈ぼく〉の成長ストーリーです。10章に分かれています。そのなかの第4章〈さびしい街〉で、〈ぼく〉は、交通事故で亡くなったマリオくんに間違えられます。現実世界で辛いことを体験した人が、夢の世界で癒される可能性の物語です。表面的にはわからない、その内面に入り込んで、泣けます。しばらく、マリオくんのママのことが頭から離れなくなると思います」
――そして、4人目ですが。
「『ユキコちゃんのしかえし』の、ユキコちゃんです。ユキコちゃんが、“犬がなつくクスリ”を、“強い相手を恐れいらすクスリ”と勘ちがいして使ってしまう。それまで、おとなしい性質で、いじめられることのあったユキコちゃんが、強気になって、いじめっ子に文句を言いにいくわけです。1966年に、朝日新聞に掲載されたのが初出です」
――学校でのいじめがおおやけになり始めたのは、1980年代以降ですから、ずいぶん、早い時期に、この問題を取り上げていたのですね。
「いじめられている子たちに対して、“自信をもってほしい”と、エールをおくっているのではないかと最近気づいて。そこに作者の優しさを感じますね」
――では、いよいよ、最後の5人目です。
「『ほら男爵 現代の冒険』の、ミニラちゃんです。この作品は、別々の雑誌に断続的に発表された中編『ほら男爵』シリーズ4編をまとめた連作集です。ドイツの〈ほらふき男爵〉ことミュンヒハウゼン男爵に孫がいたという設定で、架空のシュテルン・フォン・ミュンヒハウゼン男爵が主人公です。〈シュテルン〉は、ドイツ語で〈星〉のことです。この男爵が、各地を旅するのですが、名作童話や神話、落語などが取り込まれており、さらに、各話ごとに女性キャラクターが登場するのです。第1話は女優のリーラ、第2話は銀行の課長令嬢ピア、第3話は男装のウサちゃん、そして、最終第4話『砂漠の放浪』に登場するのが、ミニラです。1970年に『別冊小説新潮』に掲載されました」
――12歳くらいのアラビア人の少女ですね。和田誠さんの挿絵も、とても可愛らしくて、品があります。
「そうですね。母親が占い師だったので、ミニラちゃんにも少しばかり予知能力があるという設定です。口に出すことばが、いちいち面白いんです。夕日を見ながら『あたしの予感によると、まもなく夜になる……』なんて当たり前のことを言ったりする。わたしと姉が小さい頃の作品なので、2人の言動を参考にしているような気がします。手塚治虫さんの『ブラック・ジャック』の、ブラック・ジャックとピノコちゃんの関係にちょっと似ています。手塚さんもそうだったのではないかと思いますが、父にも、幼い娘の発言が面白い、というのはあったと思います。最後に、このミニラちゃんが、どこの何者なのかが明かされますが、それは、読んでのお楽しみということで」
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