「そのとき改めて恐怖を覚えた」愛人を選んだ夫を16年ぶりに連れ戻した妻のひと言 54歳夫がしていた“大いなる勘違い”

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2つの「別れ」

 だが、それから数年が経ったころ、綾那さんの夫がいなくなった。息子からの連絡で知った峻介さんは、あわてて家に駆けつけた。綾那さんはひとりポツンとソファに座り込んでいた。

「どうしたんだよと言ったら、ケンカしたら家を出て行ってしまった。言いたいことも言えずに息がつまったと。綾那にも言いたいことを抑えることができるんだとつぶやいたら、ティッシュの箱が飛んできました。『男なんてサイテーよ』と叫びながら殴りかかってきた綾那を受け止めたら、自然と抱き合う感じになって……。綾那が僕の胸で泣いていました」

 そんなことがあってから数週間後、涼子さんから別れを告げられた。帰宅すると置き手紙があったのだ。「今までありがとう。もう帰りな」とあり、自画像と思える笑顔の女性のイラストが添えられていた。涼子さんはイラストがうまく、ときどきそうやってメモに絵を描いて置いてくれていたのだが、そのときはもっとも悲しくてもっともかわいいイラストだった。

「涼子にはわかっていたんだと思う。綾那の状況も、僕の心境も。確かにあのころ僕は、綾那のもとへ戻りたいと思っていた。でも今さら言えないし、戻ったところでうまくいくかどうかもわからない。ただ、涼子への情熱がついに枯渇していたのも事実でした」

僕の16年は何だったんだろう

 長男はすでに家を出て独立、次男はこの春、就職するが家から通うつもりだという。母は変わらず近所にひとり住まいをしている。80歳になるが元気で、「まさかまたあんたの顔をここで見るとは思わなかった」というのが第一声だった。

 綾那さんは、彼を迎えるにあたっても淡々としていた。「やっぱり縁があったのかな。お互いに嫌になったらちゃんと言おうね」と言ったそうだ。

「戻って半年、16年もブランクがあったとは思えないんですよ。逆に言うと、僕の16年は何だったんだろうとも思う。涼子ともいまだに交流はありますが、驚くほど情熱はなくなっている。涼子とのほうが熟年夫婦みたいになっていて、綾那とは新婚みたい」

 振り返ると、僕は本当に幸せだったんだなと思うと彼はノーテンキにつぶやいた。女性ふたりの聡明さと自立心がなければ、もっと大変な目にあっていたはず。それをわかっているとは思えないのだが、その彼の妙な純粋さを女性たちは愛したのかもしれない。

 ***

 峻介さんの“家出”生活は長きにわたったが、その始まりは唐突だった。【記事前編】で、涼子さんとの出会い、綾那さんとの別れまでを紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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