「そのとき改めて恐怖を覚えた」愛人を選んだ夫を16年ぶりに連れ戻した妻のひと言 54歳夫がしていた“大いなる勘違い”

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釈然としない…峻介さんの胸中

 綾那さんの求めに応じて離婚届を送ったものの、何か釈然としないものが残った。綾那さんへの未練なのか、あるいは自分が信じてきた、妻のいる世界と恋人のいる世界の両立が通用しなかったことへの後悔なのか……。

「決して変わることのなかった涼子への情熱に影が差した。そんな気がしました。同時にわがままだとわかっていたけど、綾那の再婚を止めたかった。論理的な理由があるわけじゃない、とにかく僕の妻が再婚するのが嫌だったんです」

 綾那さんに会ってそう伝えた。「再婚しないでほしい」と。綾那さんは「あなたにそう言われても困る」としか言わなかった。一方、そのころ涼子さんは夫を亡くしている。急病で倒れてそのまま亡くなったのだが、峻介さんは気づかなかった。

「涼子が出張だと言って出かけたんです。ときどき出張はあったし、様子がおかしいわけでもなかったからわからなかった。でもその後、実は夫が亡くなって、お通夜と葬式をすませたと聞いてびっくりしました。彼女だって夫への思いはいろいろあったはず。それなのにあんなに平然としていたなんて、どういう女性なんだろうと改めて思って」

 どんなに情熱があっても、ひとりの人間を知るには人生は短すぎるのかもしれませんと彼は言った。それなのに自分は「ふたまた」をかけてしまった。だからどちらの女性のことも理解できなかった、と。

「3人で会わないか」

 困り果てた峻介さんは、綾那さんに「涼子と3人で会わないか」ともちかけた。目の前にふたりがいたら、自分の心がどう動くのかを知りたかったのだ。もちろん聡明な女性ふたりはそのくらいのことは見抜いていた。見抜きながらも「いいかも」と賛成した。

「3人で会いました。誰かが感情的になることもなく、3人とも淡々としていた。僕らはこれからどうしたらいいんだろうと言うと、『それぞれが思っていることを話そう』ということになって。綾那は再婚すると言い、涼子は現状維持だと言いました。僕は妻としての綾那、恋人としての涼子を今まで同様、愛していきたいと言った。ただ、綾那が再婚するのは嫌だとも宣言しました。それは綾那を愛しているから。涼子への愛とは違うかもしれない、でも綾那が他の男と結婚するのをよしとはできない」

 女性ふたりは鼻で笑ったという。あなたに綾那さんの自由を阻害する権利はないと涼子さんは言った。女性ふたりは初めて会ったにもかかわらず、妙に意気投合していた。わかってると峻介さんはふたりに頷いて見せた。

綾那さんの結婚式へ…

 綾那さんは結婚式代わりに親しい人だけを集めたパーティを開いた。そこに峻介さんと涼子さんも招待された。息子ふたりがニコニコしながら迎えてくれた。

「なにもかもオレが悪かった。きみたちにはつらい思いをさせた。申し訳ない。僕の口からすんなりそういう言葉が出てきました。すると長男が『みんな、それぞれの人生を生きればいいんだよ。僕らは飢えることなく、ふたりとも大学まで行った。それだけで感謝してるよ』と言い、次男が『子どもはそれほど親の影響を受けないってこと』と笑った。この子たちはなんだかすごい大人になったなと思いました」

 綾那さんの夫は5歳年下のいい男だった。やける? 涼子さんが囁いたが、彼は首を横に振った。嫉妬はなかった。綾那さんの心が離れていったのが寂しかった。綾那さんはみんなに義母を「母です」と紹介していた。母は峻介さんを見ると、声を出さずに口だけで「バーカ」と形を作った。「これには予想以上にめげた」と彼は言う。

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