「そのとき改めて恐怖を覚えた」愛人を選んだ夫を16年ぶりに連れ戻した妻のひと言 54歳夫がしていた“大いなる勘違い”

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半年ぶりに再会した妻は…

 半年ほどたったとき、峻介さんは社内でばったり綾那さんに会った。仕事の都合で、峻介さんがいるビルにやって来たようだった。

「おっと言ったら綾那もニコッとしていました。怒っていないのが不思議だった。その日、一緒にランチをとりました。子どもたちはどうしてると聞いたら、『ごまかすには限界がある。会いたがっているから会ってよ』と。綾那に申し訳ないと言うと、『自分の気持ちに忠実に動いたんでしょ。謝る必要なんてないわよ。別に私はあなたに庇護してもらう立場にあるわけではないんだから』と。綾那らしいなと思いました」

 それを機に、綾那さんと連絡をとるようになり、2週間後に彼は1度、家に帰った。子どもたちは「おとうさん、どうしていなかったの」と抱きついてきた。ごまかしたくはなかったが、子どもたちの気持ちを考えると、仕事の都合でと言うしかなかった。

 それ以来、月に2度ほどは自宅に戻るようになった。彼の二重生活が始まったのだ。子どもたちに時間があるときを見計らって一泊することもあった。子どもたちに寂しい思いをさせない。それが夫婦の暗黙の了解となった。

「綾那や子どもたちが僕を許していたかどうかはわからないけど、受け入れてはくれていた。ただ、母だけは僕を受け入れようとはしなかった。あんたの顔も見たくないと、僕が自宅にいるときは絶対に来ませんでした。『お義母さんだって、本当は会いたいんだろうけど、私の手前、遠慮しているのかもしれない』と綾那は言っていました。綾那と母は相変わらず仲がいいみたいで、それだけが救いでしたね」

 女性たちが現実に即してうまく立ち回り、なおかつ経済的にも精神的にも自立していた。だからこそ、こういう生活が成立していたのだろう。給料の半分は綾那さんに渡す生活だったが、それについて涼子さんが何か言ったこともなかった。

綾那さんから衝撃の“告白”

 子どもたちの成長については折に触れて綾那さんから報告や相談があったし、峻介さんも子どもたちと顔を合わせて話した。長男は高校生になったころから、「我が家はおかしくなっている」と思ったようだ。子どもたちが20歳と18歳になったとき、峻介さんは初めて子どもたちに「別の女性と暮らしている」と話した。ふたりとも「知ってる」と言った。

「言葉では責められなかったけど、僕としては肩身が狭かった。申し訳ないと頭を下げると、『僕らはいいよ。おかあさんに謝ったほうがいいんじゃない?』と長男に言われました。でもその直後、綾那から『再婚したいから離婚して』と言われました。そんな存在がいたのかと愕然としましたね」

 自分が夫婦としての責務をまっとうしていなかったのに、妻に別の男性の存在をほのめかされて彼は驚いたという。綾那は自分のことを思っているに違いない、別の男など作るはずがないと信じ込んでいたのだ。ところが綾那さんは少し前から恋愛をしていた。子どもたちが大人になるのを待っていただけだった。

「そのとき改めて、綾那との縁が切れる恐怖を覚えました。僕は甘えていただけだったんです。僕は綾那と涼子、どちらも選びきれなかった。でも綾那は、僕とその男を天秤にかけて、そちらの男を選択しようとしている。それがショックだったし、オレは綾那が待ち続けるに値しなかったのかとも思った。涼子との関係がうまくいっているにも関わらず、そんなふうにショックを受けている自分を呪いました」

 ふたりの女性からモテていたかったということではないと彼は言った。綾那さんと自分、涼子さんと自分、それぞれにきちんと関係を結んでいると信じていたのだ。だが綾那さんは、子どもの父親として峻介さんを必要としていただけだった。それがショックだったのだろう。

「涼子にその話をしたら、『いろいろな愛があるし、いろいろな関係がある。綾那さんが他の男性との関係を育むにはじゅうぶんすぎる時間があったはず。彼女がずっと自分のことを思い続けているって思ってたの?』と呆れられました。そして改めて『私とあなたは他のことは何も考えず、純粋に男女の関係でいればいい。私はそう思っている』って。振り返ったら、涼子と暮らし始めてから10年がたっていました。結婚生活より長くなっていた。でも確かに、僕と涼子は互いの家族などの話はほとんどせず、ふたりだけの関係だけを見つめてきた。綾那との関係は子どもを介してのものでしかなかったかもしれないけど、涼子との関係は、まさに僕らだけのもの。そう思えました」

 自分が何を求めて生きているのか。それまで情熱に任せて突っ走ってきた峻介さんが、初めて立ち止まった瞬間だった。何かを確認したり意味を考えたりしてこなかったこともわかった。

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