「春、花粉を回避する街」の資産価値 「こんなに違う」東京23区に潜む「花粉格差」のメカニズム

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 小池百合子・東京都知事が「花粉ゼロ」を掲げてから10年が経つ。しかし、その現実は改めて説明するまでもないだろう。都内マンションの販売価格を定点観測し続けるマンションブロガー「マン点」氏は、同じ都内でも地域によって飛散する「花粉の量」には大きな開きがあると指摘する。同氏のレポートをお届けする。

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1日の労働の4割を削り取る「目に見えない環境負荷」

 毎年「この季節」が来ると憂鬱な気分になる人も多いだろう。花粉症は「個人の体質」の問題にとどまらず、国策として大量に植えられたスギ人工林による「現代の公害」と捉えることもできる。

 厚生労働科学研究の報告や、日本鼻科学会の調査によれば、スギ花粉症患者の労働能率低下率は平均して「33%から42%」に達するという。つまり、デスクに座っているあなたのパフォーマンスは、その約4割が知らないうちに“霧散”していることになる。

 これは「出勤はしているが、症状によって業務能率が著しく低下している状態」。すなわち「見えない欠勤」とも称される経済損失である。

 ところで、同じ23区でありながら、その飛散量には地域によって大きな違いがあるのをご存じだろうか。

 実は、杉並区や練馬区と、墨田区や江東区では、そのエリア一帯の花粉の飛散条件に明確な差があるのだ。不動産価値を語る際、我々はこれまで地価や交通利便性にばかり目を奪われてきた。

 しかし、毎年のように花粉症に頭を抱える人にとって、それはもはや不動産選びにおける「隠れた資産価値」とも言える。データでひも解く、居住地選びの新たな判断材料を提示したい。

行政の通信簿:年率0.1%の物理的限界

 2016年の都知事選に始まり、翌年の衆院選で小池氏が「希望の党」を結成した際にも掲げられた「花粉症ゼロ」公約。行政は大量の花粉を生むスギ人工林の「伐採」「植え替え」「発生抑制」の三本柱を軸に対策を講じてきた。

 年間予算を増額し、多摩のスギ林を植え替える努力は評価されるべきだが、そこには冷徹な「物理の壁」が立ちはだかる。

 都の最新資料(令和7年版・暫定)によれば、2016年以降の年間植栽実績はほぼ30〜50ヘクタールで横ばいだ。母数となる2万ヘクタール超の人工林に対し、年次進捗率はわずか0.1%〜0.2%前後。20年近い積み上げをもってしても、累計では「全体の3%」にも満たない。

 都の作成した資料の中ですら「伐採更新は依然として十分に進んでいない」と、その遅れを認めている状況。森林の構成を変えるためには数十年単位の時間が必要なのだ。岸田政権(当時)が打ち上げた「10年」という目標も、自然のサイクルの前ではあまりに短い区切りだと言わざるを得ない。

 花粉の発生源としての森林体積は依然として圧倒的であり、統計的には変化が見られないのが現状だ。

 行政による抜本的な解決には半世紀以上の時間がかかるのであれば、個人の立地選択で対抗するしかない。

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