【ばけばけ】「ワカレル、シマス」「イウデキナイ」… ヘルンさん言葉”に見るセツと八雲の信頼関係
上達したヘブンの日本語
NHK連続テレビ小説『ばけばけ』も、第20週「アンタ、ガタ、ドコサ。」(2月16日~20日放送)から舞台は熊本に移った。レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)は松江で1年3カ月弱をすごしたのち、第五高等中学校(現・熊本大学)の英語教師に転出。妻の松野トキ(髙石あかり)、その養父母の司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)らとともに、松江から転居した。
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ヘブンが語る日本語も、だいぶこなれてきた感がある。たとえば97回(2月17日放送)では、トキとヘブンのこんなやりとりがあった。
ある晩、ヘブンがトキに「クマモト、タノシイ?」と聞いて会話ははじまった。トキが「いまはなにを書かれちょるんですか? 熊本の人の暮らしですか? それとも学校のこととか? それか虫や草花とか? えっ、なんでしょう?」と尋ねるが、ヘブンは「ヒミツ! ヒミツデス! マダ、イウデキナイ、シャベルト、ハナシ、ニゲル。ダカラ、ヒミツ」といって教えない。
「ダカラ、ゴメンナサイ」というヘブンに、トキは「少し、ほんの少しだけでも。えーっ、もう、ケチ!」と言い放つと、ヘブンはこう返した。「アア、イエス、イエス、ワタシ、ケチナ、オット、ケチノ、セイヨウジン」。なかなか気が利いた会話である。
この会話はいうまでもなく、『ばけばけ』の毎週の副題と似ている。第19週「ワカレル、シマス。」、第18週「マツエ、スバラシ。」というあのタイトルである。実際、ヘブンのモデルであるラフカディオ・ハーン(のちの小泉八雲)も、これとそっくりの日本語を話し、それは「ヘルンさん言葉(ヘルンはハーンのこと)」と呼ばれた。
夫婦だけに通じた日本語
「ばけばけ」では現在までのところ、ヘブンが日本語を学習する場面はないが、実際、ハーンも日本語を系統立てて学ぶ機会はなかったようだ。
その代わり、日本語の単語や慣用句を一つひとつ覚え、動詞や形容詞は活用せずにもちいた。また、動詞を文の最後に置く日本語の語順と、主語のすぐ後に動詞を置く英語の語順を、時と場合によって使い分け、意味を伝えようとした。
たとえば、第19週の「ワカレル、シマス。」という副題、あるいは先に引用した「イウデキナイ」という表現は、典型的な「ヘルンさん言葉」だと思う。こうした言葉について、トキのモデルの小泉セツが記した言葉が、ハーンの死後にエリザベス・ビスランド(『ばけばけ』でシャーロット・ケイト・フォックスが演じたイライザ・ベルズランドのモデル)がまとめた『ラフカディオ・ハーンの生涯と書簡』に収録されている。
「私ども二人だけの日本語の方は、必要に迫られて大きな進歩を見せました。この特別な日本語は、日本人の友人たちのどんなに上手な英語よりも、ヘルンにとって分かりやすいということになりまして、私の日本語をいつも喜んでくれました。ヘルンは、やがては日本語で一雄を教育したり、日本語でほかの子供たちに日本の物語を教えるようになりました。でも、松江におります頃は、私どもは会話では苦労致しまして、時々は辞書を引かなければなりませんでした」(長谷川洋二訳)
ちなみに「一雄」とは、熊本に転居して2年ほどで生まれた、夫妻が待望した長男である。
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