ぺこぱ・松陰寺、ラサール石井への「真っ向反論」が称賛された理由 極論に流されない“冷静な議論”

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論破ブームの一方で「批判疲れ」

 現在の世の中の空気も彼の評価を後押ししている。SNSの普及によって、強い言葉や極端な主張が可視化されやすくなった一方で、そうした言論空間に疲れている層も増えている。感情的な対立を見せられることに消耗し、冷静に話す人物に安心感を覚える視聴者が少なくない。

 今回の衆院選でも、政権与党である自民党への批判を声高に叫んでいた中道改革連合が大惨敗を喫して、自民党が大勝することになった。また、「分断を煽らない」「相手を貶めない」をモットーとする新興政党のチームみらいが大幅に議席数を増やした。論破ブームの一方で「批判疲れ」を感じている人も確実に増えてきている。

 松陰寺の態度は、政治的にどちらの立場であるかというのを超えて、「この人の話なら聞ける」という信頼感を生み出した。彼は単に議論に参加したのではなく、議論の空気そのものを変える役割を果たしていた。

 また、芸人が政治的なテーマにかかわること自体の難しさも見逃せない。日本では芸能人が政治的な発言をするのを避ける傾向にある。一部には積極的に政治的な主張を展開する人もいるが、そういう人に限ってやや偏った極端な主張をするケースが目立つ。だからといって、討論系の番組に出演して無難なコメントに終始していても印象に残らない。

 そんな難しい状況の中で、松陰寺は極論に走ることもなく、曖昧な態度に逃げることもなく、自分の言葉で話し合いに臨んでいた。そのバランスの取れた姿勢が説得力を生んでいた。

 相手を言い負かすことと議論を前に進めることは同じではない。松陰寺の振る舞いが評価されたのは、その違いを自然に体現していたからだ。彼は対立が可視化されやすい時代において、希少なコミュニケーションのあり方を示していた。今回の反響は、個人としての評価を超えて、視聴者が求めている議論の姿そのものを映し出していたと言える。

ラリー遠田(らりー・とおだ)
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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