なぜ?「首吊り」が多発する埼玉某所の公園を怪談作家が訪れた 地元で噂される“若いカップル”の悲劇譚【川奈まり子の百物語】

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最適スポット

 茶色い土からニョキニョキと木だけが生えて、風に梢を揺らしているだけなのだ。

 樹々の向こうに公園の外周を通る車道とガードレールが透けて見えていた。

「とても殺風景で物寂しい雰囲気ですし、これでは、外から丸見えですよね?」

 友人は「だから良いのでは?」と私に応えた。

「深夜ここで首を吊ると、翌朝には必ず発見してもらえますから。そこの道路ですが、日中は交通量が非常に多くて、それなりに人も歩いていますけど、夜間は車も人通りもパタッと途絶えるんですよ」

「そういうことは地元民しか知りえない情報ですね。と、言うことは、ここで亡くなるのも近隣住民なのかな……」

「さあ……。でも、わざわざ遠くから来るような場所ではないでしょう。古城マニアと歴史オタクには人気がある公園ですけど……川奈さんはご存じでしたか?」

「いいえ。残念ながら存じませんでした」

 特に首吊り用のロープを掛けやすそうな下枝が張り出した木が3本ぐらいあった。

 そのうちの1本の根もとに煙草の吸殻がいくつも落ちているのを見た途端に、なぜか足もとから寒気が這い上ってきて、全身のうぶ毛がチリチリと逆立つのを覚えた。

「さっきの話の男性も、ここで?」と友人に問うと、

「たぶん」という答えが返ってきた。

「この界隈ではここが最適な場所なんだと思いますよ。私が知っているだけでも10人以上ここで首を吊っていますからね!」

小さな記事

 その後、私はそこが城跡というだけではなく、戦国時代の古戦場跡でもあって、北条氏の軍勢と血で血を洗う戦闘が繰り広げられたり、豊臣秀吉の小田原征伐の折に攻め滅ぼされて落城したりといった歴史を有することを知った。

 しかし何百、何千という人が亡くなったとしても、それは遠い過去であって、自殺が多い理由にはならない。

 偶然に過ぎないと私には思え、時間を割いてくれた友人には申し訳ないが、これだけでは怪談として書くのは難しいと判断した。

 その後、2022年の春にこの場所で男性の遺体が発見された。首にロープを巻きつけて木の枝にぶら下がっているところを、近くで野球をしていた青年がファールボールを探していて発見したということだ。
 
 この件は埼玉の地方紙で報じられたから、たまたま私が知るに至った。
 
――しかし、報道されるのは起きたことのごく一部で、知られざる事件、世間の目からは隠された悲劇の方が、はるかに多そうだと思うのだ。

――― 

 埼玉県某市の公園で起きた悲しい事件と、その後に続く自殺…【記事後編】では、またも「私」の耳に入った「公園での首吊り自殺」の詳細を明かしている。

川奈まり子(かわな まりこ)
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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