なぜ?「首吊り」が多発する埼玉某所の公園を怪談作家が訪れた 地元で噂される“若いカップル”の悲劇譚【川奈まり子の百物語】
カップルの悲劇
口を開くまで待っていようと思い、その間、元は空堀だったという遊歩道を観察した。
道がカーブしていて、見通しが悪いせいもあり、長く感じる。しかし実際には450メートルあまりしかないようだ。
遊歩道といっても舗装されているわけではなく、樹々に囲まれた土を踏み固めただけの地面を歩いていくので、山歩きの風情がある。
遠くから子どもの歓声が聞こえてくるのは、公園の広場で遊んでいるのだろうと思われた。公園の正門から遊歩道の出入り口まで来る間に、親子連れや小学生の集団がいる芝生の広場を通過した。
その向こうに赤い欄干の橋の架かった池が水を湛えており、シラサギやカルガモの姿もあった。
自殺が多発したり、人が襲われたりするにはふさわしくない、良い公園だ。
友人が、ようやく話しはじめた。
「高校の先輩から聞いた話です。10年以上前のことですが、先輩の中学時代の同級生の男性が、同い年の彼女を連れて、夜、この公園でデートしていたところを不良グループに襲われて、彼女は遊歩道のどこかで酷い性暴行を受け、男性の方は殴る蹴るの暴力を振るわれたそうです」
「ここで?」と私は訊きながらゾッとした。深い堀の形状である。逃れようにも、道から這い上がれそうになく、道沿いに走って逃げるしかないが……。
「きっと、女性の足ではすぐに追いつかれてしまったでしょうね。複数の若い男たちに追い駆けられるのは、どれほど恐ろしかったことか!」
自死
「ええ。夜は真っ暗ですから誰も通りませんし……。デートするなら、もっと明るい、池のほとりのベンチかどこかでしょう? もしかすると、その女の子は、そいつらから逃げて、ここに隠れたつもりだったのかも……」
「かわいそうに……」
「はい。それで、そのカップルは、2人とも精神を病んで自殺してしまったそうです。彼女の方はどこで命を絶ったのかわかりませんが、男性はこの公園に来て首吊り自殺した……と、先輩から聞きました」
「犯人グループは?」
「捕まったようですけど、詳しいことはわかりません。被害者が2人とも死に至らず、重傷でもなかったようなので、たぶん刑罰は軽かったでしょうね」
「許しがたいなぁ! 結局2人とも亡くなってしまったのに……」
そうこうするうち、私たちは頻繁に人が自死する場所に到着した。
そこは遊歩道から階段を上って、ほんのわずか歩いた先にあった。
私は辺りを見回して、「よくわからない場所ですね」と友人に言った。
幹の太い広葉樹が何本か、2~3メートルずつ間を開けて立っているだけで、ベンチや遊具は置かれていない。花壇も無く、樹々の下は平らな地面で雑草もほとんど生えていなかった。
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