東京地検特捜部はなぜ「インサイダー事件」を“初荷”に選んだのか? 予算成立後の“政界捜査”に注目が集まる理由
異例のアプローチを称賛
昨年1月に発覚した証券口座の乗っ取り事件は、ネット証券の台頭と、NISAやiDeCoの登場で、主婦や学生らにも広がるデイトレードの活況を受けた対応が監視委に求められる中で起きた。その後の調べで、不正アクセスによって株価操縦が行われていたことが判明。監視委は同12月、金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いで、中国籍の男を特捜部に告発している。サイバー攻撃と相場操縦を組み合わせた新しい手口により被害が急拡大したため、監視委が異例の“アプローチ”を見せたかたちだ。
ネットが生活に定着し、証券市場を取り巻く環境は一層高度化、複雑化が進んでおり、こうした監視委の対応を称賛する市場内での意見は多い。男が乗っ取った口座で買っていたのは、取引量が少なく、わずかな売買でも価格の変動が大きい企業の株で、証券市場では「ボロ株」などと呼ばれるものだった。前出の株取引に詳しい弁護士によると、
「相場操縦の調査には、株売買のタイミングや値動きを秒単位で追う作業が必要なため、時間と手間がかかる。それだけに、人員削減が続く中で、監視委が告発件数を維持するためには単純なインサイダー取引の方が、手っ取り早く結果が得られると考えるのは無理もない面はある」
そもそも「初荷」などといった縁起を担ぐような発想自体が古いとの見方もあるが、警視庁など各都道府県警の捜査1課が課内に神棚を飾っていたりするなど、捜査機関にはゲン担ぎの風習が、根強く残っているのも事実だ。
一方で、この初荷の“選択肢”については「別の見解」(同OB)もあるようだ。
特捜部はかつて、1992年に阿部文男元沖縄開発庁長官を共和汚職事件で逮捕。2001年には小山孝雄参院議員をKSD事件で、また10年にも石川知裕衆院議員を陸山会事件で逮捕したほか、24年には池田佳隆衆院議員を派閥裏金事件で逮捕している。いずれのケースも逮捕は年明け早々の1月。つまり事実上の初荷であった。ロッキード事件に象徴されるように「巨悪を眠らせない」とのフレーズで知られる東京地検特捜部の真骨頂の一つが、中央政界の浄化であることは論を俟たないところだ。
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