東京地検特捜部はなぜ「インサイダー事件」を“初荷”に選んだのか? 予算成立後の“政界捜査”に注目が集まる理由
「特捜の“初荷”が、単純なインサイダー取引事件とはねぇ……」
ある検察OBの弁護士がため息をついた。「貯蓄から投資へ」の政策転換で新NISAも始まり、株式市場に注目が集まる中、「市場の番人」と呼ばれる証券取引等監視委員会(監視委)とタッグを組む東京地検特捜部が2月に入り、金融商品取引法違反(インサイダー取引)容疑で準大手の三田証券元役員らを逮捕した。東京地検特捜部にとっての「初荷」とは、新年に入って最初に強制捜査(逮捕)に着手する事件のこと。その年を占うような意味合いもあるだけに、市場の健全化に力点を置く特捜部の捜査姿勢を評価する意見がある一方、一部には不満の声も聞かれる。それはなぜなのだろうか……。
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監視委とのタッグは順調
改めて事件の概要を振り返っておこう。
元取締役らが逮捕された三田証券は、モーター製造大手ニデックのTOB(株式公開買い付け交渉の代理業務を依頼されていた。同社が工作機械大手の牧野フライス製作所に対してTOBを仕掛けるとのインサイダー情報に基づき、TOB公表前の2024年9月から12月にかけて、フライス社の株式32万9100株(約23億4980万円分)を買い占めた、というもの。2月10日までに7人が逮捕されている。
最高検は2011年秋、東京地検特捜部の捜査体制について、主に国税局とタッグを組んで脱税事件を捜査していた財政経済班を、財政班と経済班に分割。経済班は監視委とタッグを組むシステムとするとともに、“犬猿の仲”とされた警視庁捜査2課の後方支援に当たる体制に変更した。
大阪地検特捜部の証拠改竄事件をきっかけに始まった検察改革の一環だが、こうした変更以降、東京地検特捜部を中心に、全国の検察が監視委から告発を受けた旧証券取引法(金商法)違反の件数は堅調に推移している。
具体的には2012年度7件→13年度3件→14年度6件→15年度8件→16年度7件→17年度4件→18年度8件。元号が変わった19年度は3件で、コロナ禍による緊急事態宣言が初めて出された20年度は2件と最少を記録したものの、21年度は8件→22年度8件→23年度4件→24年度7件――実績は着実に重ねられており、25年度も今回で4件目となる。
証券犯罪の刑事告発は、任意調査や強制調査(家宅捜索)の結果に基づき、受理する地検と、調査をした監視委が事前協議を重ねた上で行われる。前出の検察OBの弁護士は「市場の健全化を図るため、一罰百戒の効果を狙って立件しているという点では、一定の成果が上がっていると言えるでしょう」と前置きしつつ、こう続ける
「本当の意味で悪質な事件というより、入念に打ち合わせて有罪が確実なものに絞って事件にしている、実績づくりのための事件……言い方を変えれば、数合わせのための事件という側面が透けてみえるようにも思う」
株取引に詳しい弁護士によると、「今回の事件は、取引額は大きいですが単純なインサイダー事件です」と話す。国家公務員の定数削減が進められる中、監視委の人員も減員が進められている。バブル崩壊後に発覚した証券不祥事をきっかけに、わずか84人の定員でスタートした監視委は、2016年度には発足時の5倍近い411人の人員を抱えていたが、その後の10年間で、1割の人員が削減されている(25年度379人)。
「強引な取り調べの問題を抱え、意気消沈している感もある特捜部と、人員削減に歯止めをかけたい監視委の利害が一致した結果の点数稼ぎのため、初荷に選ばれたのが今回のインサイダー事件だとする意地の悪い見方もあるのです」(同OB)
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