「奥さんも会社を辞めてオランダに同行して」夫の会社から要請…“私って何なんだ”32歳駐在妻の「自分を見失った日々」

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「私」を取り戻すために……

 そんな駐妻たちに前川さんがアドバイスしているのは、「駐在生活は自分のキャリアを見つめ直す時間と捉えてもらうこと」だそうだ。

「資格の勉強をしたり、現地で語学を学んだり、ボランティア活動をしてみたり……。就労ビザが許すなら、思い切って現地で働くことに挑戦してもいいと思います。

 また、企業側にも問題があります。現在、一部の大手企業でしか導入されていない「帯同休職制度(パートナーの転勤に同行する間、会社を辞めずに休職できる制度)」や現地でも働き続けられる仕組みを社会全体に広めていく必要があります」(前川さん、以下同)

 本当は仕事を続けたかったのに、やむを得ず退職を選んだ結果、帰国後に再就職の壁にぶつかる女性は少なくない。高い能力やキャリアを持ちながらも、一度ブランクができると正社員に戻れず、パートや専業主婦にならざるを得ないケースも多い。

「こうした『キャリアの断絶』は、彼女たち個人にとってはもちろん、社会にとっても大きな損失といえるのではないでしょうか」

 その後、件の英美里さんは前川さんの言葉を胸に一念発起。「このままじゃもったいない! 現地の生活になじもう」と、オランダ語の語学学校へ入学した。学校ではさまざまな国から来た友人ができ、今ではレストランや病院でも困らない程度に、日常会話をこなせるようになったという。

「夫の付属品」ではなく「一人の自立した女性」として。帰国まであと一年。英美里さんは今、そこでしかできない経験を、自分の足でしっかりと積み上げている――。

※本記事で紹介した事例は、実際にあった出来事を基に、個別事案が特定されないようプライバシーに配慮し、登場人物や具体的な状況に一部変更を加えて再構成したものです

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前川由未子さん
金城学院大学国際情報学部 専任講師。臨床心理士、公認心理師。産業組織領域を専門に、これまで5000人以上の支援に携わる。2025年、海外居住者のメンタルヘルスケアを提供する(株)Taznaを設立。

取材・文/荒木睦美

デイリー新潮編集部

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