“笑える”朝ドラから一変 「ばけばけ」が描き始めた“人間の見苦しさ” 世間の目、引け目、嫉妬心

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秘密を生徒に告白

 錦織友一(吉沢亮)が松江中学の校長に就任する話は消えた。朝ドラことNHK連続テレビ小説「ばけばけ」の話である。錦織は校長に就けない理由である秘密を生徒らに明かした。笑える朝ドラの本質が見えてきた。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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 錦織と親友で松江中の英語教師であるレフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)。この2人が抱えていた苦悩には共通点があった。

 錦織の場合、人々の認識とは違い、中学教師の検定試験に通ってなかった。試験に合格すれば得られるはずだった帝大卒業の資格もない。

 それを隠し通さないと、中学教師の仕事は続けられない。もちろん校長にもなれない。だから弟の丈(杉田雷麟)にも親友のヘブンにも秘密にしていた。

 ヘブンの場合、妻のトキ(高石あかり)が人々からラシャメン(外国人の妾)と蔑まれ、顔に石までぶつけられたことを気に病んでいた。トキは自分と気づかれないようにするため、顔にショールを巻かなくては外出できなくなった。ヘブンは不憫でならなかった。

 2人の前に立ちはだかったのは世間の目。善意にも悪意にもなる。一筋縄ではいかない相手だ。錦織の秘密を唯一人知りながら、重用してきた島根県知事・江藤安宗(佐野史郎)が気にしたものもこれである。

 錦織は世間の目が厄介であることに早くから気づき、言外に口にしていた。1886年だった第19回(昨年10月23日放送)のことである。出奔した前夫・山根銀二郎(寛一郎)を追って東京に来たトキに向かって、こう言った。

「東京はやり直せる場所だ」

 理由の説明はなかった。錦織は東京には仕事があると言いたかったのだろうが、それだけではやり直せない。親類縁者のしがらみがなく、世間の目も存在しないと伝えたかったのだ。昔も今も地方出身者で溢れかえる東京は、良くも悪くも他人への関心が薄い。

 それから5年後の1891年、同様の言葉をトキの親友・野津サワ(円井わん)が口にした。今度は直接的だった。第93回(2月11日放送)である。

 誰も知り合いがいない熊本の第五高等中学にヘブンが転任したがっていると嘆くトキに対し、こう漏らした。

「誰も知らんところって、一からやり直せそうで、憧れるわぁ」

 錦織が口にした「東京」とサワの言った「熊本」は同じ意味を含んでいたのである。2人とも没落したとはいえ、武家の出身。人一倍、世間の目を気にしなくてはならなかった。

 錦織には不合格のあと、再び検定試験に挑む道もあった。一緒に試験を受けた庄田多吉(濱正悟)が第20回(昨年10月24日放送)で合格への不安を漏らすと、「また受ければいいじゃないか」と軽く言っている。

 それが自分では出来なかったのは貧しさで再受験が難しかったのと、「大盤石」と呼ばれ、松江の期待を一身に背負っていたからだろう。やはり世間の期待は重たかった。

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