杉並区公立小で小2男児にいじめ 「重大事態」認定も、進まぬ区の調査 被害児童は「6対1で殴られ、内股を膝蹴りされ…」、今も不登校が続く

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中止されたプレゼン

 ますます不信感を覚えたAくんの母親は、翌日もAくんを休ませることに決めた。週開けの月曜日から、Aくんは登校し、これまで同様、母親や父親が校門まで付き添っていたが、この月曜日である5月30日、Aくんは、クラスの皆に対して“自分がされたこと”を伝えるために、あるプレゼンを考え、帰りの会に披露しようと考えていた。

 仲の良いクラスメイトに、紙を持たせてAくんが告げる。

「その紙をくしゃくしゃにしてください。その紙は、ぼくの心です」

 一度丸まった紙は、広げても折り目が残り、元の紙に戻ることはない。それが「いじめ」なのだ……Aくんはそんなプレゼンを帰りの会でしようとしていた。ところがクラスメイトが“Aくんの心”である紙をつぶすことができないでいると、そこに生活指導主任が割って入り、プレゼンを中断させてしまった。

 Aくんはクラスの皆に、自分がされたこと、そして自分の気持ちを伝えることができないままとなった。それは現在まで続いている。

机と椅子を廊下に出し…

 以降、毎日、両親とともに登校していたAくんだが、2022年6月18日土曜日の合唱祭を最後に、週明けの20日から不登校となる。最後に登校した日、合唱祭が行われる体育館に入ることができず、校庭で、クラスメイトの歌声を聞きながら「僕は頑張れない、全然頑張れないんだ」と言って、泣いた。

 Aくんの母親は、SNSでは「らめーん」というアカウントで、Aくんに関するエピソードを時折発信することがあった。前述のように職業は弁護士である。らめーん氏は、学校で何が起こっていたのかを知るため、Aくんが不登校になって以降、情報公開請求を続けてきた。そこで分かったのは、Aくんはいじめ発生以降、不登校になるまでの間、教室に入ることができないでいた、という事実だった。

 教室に入れず、廊下にいるAくんに対し、学校は「見守りをする」という方針をとった。ゆえに、原因究明という形での対応もなされることがなかった。Aくんが教室に入れない状態にあることを、保護者に連絡することもなかったどころか、学校はAくんの机と椅子を廊下に出していたことも判明した。

 Aくんの父母は毎日Aくんに付き添って学校に行き、正門で校長と挨拶していたが、教室に入れないことの報告は保護者に対してなされないまま。また、Aくんはその後もクラスメイトから殴られ、暴言を浴びせられるなどしてきた、これも保護者に報告がなされていない。前述のように5月25日、男子と女子との乱闘について、産休代替教師が関係児童を集めて話を聞いたが、その際、Aくんは泣いていたという。これも保護者は後から知った。すべて、学校からの連絡ではなく、情報公開請求によりわかったことだ。

 6月20日、Aくんを休ませることを伝えるため、ひとり学校に向かった母親のらめーん氏は、校門に立っていた校長に、欠席の報告をしたのちに告げた。

「先生、これっていじめにあたりませんか?」

 文部科学省所管のいじめ防止対策推進法、第二条に「いじめ」はこう定義されている。

〈児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。〉

 Aくんに対するクラスメイトからの暴力行為が始まって実に1ヶ月後、母親であるらめーん氏の助言により、学校はようやく杉並区教育委員会に対し、Aくんへのいじめ事案を報告した。

 遅きに失する学校の対応によって、Aくんの心身は何度も危険にさらされてきた。しかし、不登校になって以降も、学校……主に校長による不誠実極まりない対応により、Aくんと両親は苦しめられる。

後編】では、本件いじめに対する、学校と杉並区の対応について、詳細に記している。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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