帰宅すると人の気配…部屋にいるのは恋人?それとも… 20代女性が意図せず送っていた「同棲生活」の相手とは【川奈まり子の百物語】

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【前後編の後編/前編を読む】赤・青・黄・緑…「原色だらけの部屋」で始まった新生活 20代女性が気づいてしまった「食事中や入浴中、行為中の熱視線」

これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集し、語り部としても活動する川奈まり子が世にも不思議な一話をルポルタージュ。

美大生のリエさんは浮気性の彼に悩まされつつも、「結婚」をちらつかされ、卒業後に彼の地元である名古屋で過ごすことに決めた。ひとり暮らしの新居は、赤や黄色、青、緑など、原色を使った少し変わった内装のマンション。前のオーナーは少し変わった画家であったと聞く。そんなあるときから、リエさんは「誰かに見られている」と感じ始める。食事中の口元や手元に視線、またトイレや浴室や寝室など部屋中あらゆる場所で視線が……。

***

 リエさんは就職した会社でテレビコマーシャルのカンプや印刷物用のイラストを描く仕事を割り振られ、最初のうちは家に作業を持ち帰っていたのだが、それすらままならなくなった。

 背後から肩越しに、絵を描く手もとを凝視されている感じがして、落ち着かないのだ。

 結局、1ヶ月と経たず、彼女は自宅で仕事をすることを断念した。

気のせいだ

 早朝に出勤し、可能な限り残業もして、家になるべく寄りつかないようにしていたら、彼が不満を口にしはじめた。

「合鍵を貰ったけど、いつ来ても留守じゃないか!」

「……引っ越そうかな。お金を少し貸してくれる? そしたら、すぐに引っ越せる」

「ハア? まだひと月じゃないか! せっかく俺の幼なじみが探してくれた部屋なのに。何が不満なわけ?」

「視線や気配を感じるの。いつも監視されている気がして……」

「気のせいだよ!」

 彼は少しも取り合ってくれなかった。

乗りかえ

 そんなあるとき、職場の先輩に「部屋が落ち着かない」と打ち明けたところ、親身になってくれた。

 その人は5歳年上の男性デザイナーだったのだが、心霊的な話題に対する忌避感が薄いタイプだったようだ。

「わかるよ」と彼は真剣な面持ちでリエさんに応えた。

「どうしたらいいと思いますか? また転居するには少しお金を貯めないと……。お祓いを受ける……とか?」

「お祓い? 手もと不如意なのに、効果があるかどうか定かじゃないものにお金を使うのは賢明じゃないよ! とりあえず僕のうちに来たら?」

 そういうわけで、名古屋に来てから2ヶ月足らずで、リエさんはこの先輩に乗り換えることにした。

 会社の先輩デザイナーと関係を持ってから、日曜の午前中、自分のマンションに帰宅すると、ドアを開けた瞬間から人の気配を濃厚に感じた。

――彼だろうか?

 なるべく早く転居するにしても、まずは合鍵を返してもらわなくては……と考えながら、「来てるの?」と呼び掛けてみた。

 返事が無かったが、部屋の奥の方で衣擦れの音が微かに立った。

「寝てた? 昨日は土曜だもんね。ライブだった?」

「……」

「あのね、話があるの」

 語りかけつつ寝室へ向かおうとしたが、浴室から水が流れる音が聞こえてきた。

 ところが浴室へ行くと誰もおらず、水も出ていない。

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