帰宅すると人の気配…部屋にいるのは恋人?それとも… 20代女性が意図せず送っていた「同棲生活」の相手とは【川奈まり子の百物語】

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人影

 うなじに視線を感じて振り返ると、黒い人影が目の端をよぎった。

 視界領域の隅を素早くかすめて、ダイニングキッチンの方へ移動した。

 体格や動作から男性だと思われたが、正体がわからない。

 彼ではなさそうだとリエさんは判断して、外へ逃れようとした。

 そのとき、キッチンで食器が割れる音が聞こえてきた。

 床に激しく叩き落として割るような物音が立て続けにして、彼女を縮み上がらせた。

 足がすくみ、手先が震えて、その場にしゃがみ込みたくなるのを堪え、必死で靴を履いて玄関から飛び出した。

 その勢いのまま、階段を駆け下りて……。

「あっ、鍵!」

 鍵を掛けるのを忘れたことに気づいたが、戻る気にはなれなかった。

 盗られて困る物など何も無い。名古屋に来る前に想い出の品は実家に送ってしまったし、高価なブランド品やアクセサリーは1つも持っていない。

 それに……彼女は彼を部屋に泊めるようになってから、貴重品を持ち歩いていたのであった。

 ずっと後に当時を振り返って、本当は彼に心を許していなかったのかもしれないと彼女は思ったとのこと。

 ――件の先輩デザイナーの家を再び訪ねて、それから一週間、居続けた。

別れ

 名古屋に来るきっかけを作った恋人を喫茶店に呼び出し改めてリエさんがが別れを告げると、彼は人目もはばからずに大泣きをはじめた。

 子どものように声を放って泣き、涙を流して、懸命に搔き口説いた。

「結婚するために名古屋に来たんじゃないのか!」

「それはそう。でも、私の話を聞いてくれなかったじゃない?」

「いつ? いつだって、ちゃんと聞いていたよ!」

「あの部屋がイヤだと言ったとき。視線や人の気配を感じるって言ったでしょう?」

「だから何だよ? そんなの気のせいだ……」

「ほら。そういうところだよ。すぐに結婚して引っ越してくれたら良かったのに」

「すぐには無理だろ?」

「じゃあ、いつまで待てばよかったの? 本当に怖かったんだよ!」

「見られてる感じがするだけで、実害は無かったんだろう?」

「ううん! 実害あったよ!」

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