赤・青・黄・緑…「原色だらけの部屋」で始まった新生活 20代女性が気づいてしまった「食事中や入浴中、行為中の熱視線」【川奈まり子の百物語】

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“視線”

 彼も、この部屋を一目見るなり気に入ったようすだった。

「いいね! 俺もときどき泊まりに来るよ」

 実際、彼はしょっちゅう遊びに来はじめた。

 リエさんは、そんな彼を歓迎した。

 しかし、間もなく、会うたびにこんな疑問が胸に渦巻くようになっていったのである。
――私はいつまでここに住んでいなければいけないんだろう?

 実は、結婚の時期を彼に訊ねても、「来年ぐらい?」といったような曖昧な言葉しか返ってこない状況であった。

 それだけでも焦りを覚えはじめる理由になる。

 だが「いつまでここに?」と思うようになった原因は他にもあった。

 リエさんが“視線”に気づいたのは、部屋に運び入れた荷物を片付けている最中のことだった。
 
 ダンボール箱から取り出した物の梱包を解く手もと。

 棚やクローゼットにしまう、一挙手一投足。

 その他にも、何か飲み食いすれば、その口もとを……誰かが、じっと見ている。

 そんな感じがして落ち着かず、この部屋には自分の他に誰もいないことなど百も承知で、つい振り返ってしまう。

四六時中

 嫌なのは、浴室やトイレの中でも見張られているような気がしたことだ。

 寝室も例外ではなかった。

 熟睡できず、夜中に二度も三度も目を覚ましてしまった。

 明け方、眠ることをあきらめてキッチンに行き、コーヒーを淹れていると、例の真っ赤なダイニングドアの辺りに人の気配を感じた。

 ギョッとして見やるとドアが5センチほど開いていて、隙間の向こうで何かが動いたように思った。

 驚いた拍子に手にしていたマグカップを床に落として割ってしまった。

 カップの破片を片付けてから、おそるおそるドアの方を確認すると、隙間は依然として開いていたものの、怪しい気配は消えていた。

 こんなことが日に何度もあり、何も起きない日が一日も無かった。
 
 彼が部屋にいるときは大丈夫かといえば、そんなこともない。

 寝室で睦み合っている最中に第三者に視姦されている感覚が拭い切れず、ワーッと叫んで素足で逃げ出したくなってしまうことも度々あった。

―――
浮気男に結婚をちらつかされ名古屋にIターンしたリエさんは不快な視線に悩まされる。【記事後編】では、視線の正体に迫る。

川奈まり子(かわな まりこ)
1967年東京生まれ。作家。怪異の体験者と場所を取材し、これまでに6,000件以上の怪異体験談を蒐集。怪談の語り部としても活動。『実話四谷怪談』(講談社)、『東京をんな語り』(角川ホラー文庫)、『八王子怪談』(竹書房怪談文庫)など著書多数。日本推理作家協会会員。怪異怪談研究会会員。2025年発売の近著は『最恐物件集 家怪』(集英社文庫8月刊/解説:神永学)、『怪談屋怪談2』(笠間書院7月刊)、『一〇八怪談 隠里』(竹書房怪談文庫6月刊)、『告白怪談 そこにいる。』(河出書房新社5月刊)、『京王沿線怪談』(共著:吉田悠軌/竹書房怪談文庫4月刊)

デイリー新潮編集部

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