赤・青・黄・緑…「原色だらけの部屋」で始まった新生活 20代女性が気づいてしまった「食事中や入浴中、行為中の熱視線」【川奈まり子の百物語】
名古屋の男
リエさんの大学卒業が間近に迫ったある日のこと、
「俺は名古屋に帰ろうと思う」と、突然、彼が宣言した。
彼と交際するうえで、リエさんが目をそむけてきた事柄がいくつかあった。
ことあるごとに「東京の男」ぶっていた彼の実家が愛知県名古屋市にあるというのも、そのうちの1つ。
リエさんが動揺のあまり絶句していると、彼は続けて「名古屋に拠点を移して音楽活動に専念したいんだ」と帰郷の言い訳を述べた。
それから、いかに名古屋のクラブシーンが進んでいるか、地方発で生まれた最先端の文物がどれほど多いかなどを、彼女に向かって熱く語った。
それを聞いて、リエさんは戸惑いながら口を開いた。
「私が広告代理店のA社から内定を貰っていることは知ってるよね?」
A社は大手の広告代理店で、リエさんが配属されるであろうデザイン関連の部署は都心にオフィスを構えている。
就活事情も逐一、彼に報告していたリエさんだった。
それに対して彼は「ああ、そんなことを言っていたね」と述べた。
「そんなことって……。大事なことだよ? 遠距離恋愛するしかなくなるよね?」
「いいや! 一緒に暮らそう!」と彼は言った。
「え? でも名古屋に帰るんでしょう?」
キョトンとしたリエさんに、彼は極上の微笑みを投げ掛けた。
「わからない? ……俺たち結婚しよう、名古屋で!」
内見
――誠に、若さとはバカさなのかもしれない。
筆者自身も若い頃に数々の愚かしい真似をしてきたので、そう思うのだが。
当時22歳のリエさんは、結婚の2文字に彼の覚悟を見た。
このとき彼女は、彼がミュージシャンとして東京で鳴かず飛ばずだったこと、専門学校在学中に真面目に勉強せず彼女と違って就活もしなかったこと、ファンの女の子たちとの浮気が日常茶飯事だったことなど、その将来性と人間性に疑念を抱かしめるすべてを乗り越えてしまったのである。
そこで彼女は、内定したA社の担当者に正直に事情を打ち明け、名古屋市内にあるA社の下請け会社にあらためて就職し直した。
そして名古屋に出向くと、彼の幼なじみが勤務する不動産会社で勧められた部屋を内見した。
そこは職場までは徒歩圏内で、名古屋駅まで運行する定期バスのバス停が目の前という好立地の中層マンションだった。
4階の角部屋で間取りは2LDK。家賃が3万2000円。
この金額を聞かされてリエさんはちょっと驚き、いぶかしく思った。
「あのぅ、実は事故物件なんてことは……?」
不動産会社の担当者は、ややわざとらしい笑みを浮かべて、「なぜですか?」と彼女に問い返し、間髪入れずに「お家賃が安いからですね」と言った。
自問自答されて、リエさんは「はい」と苦笑した。
「こんなに便利で好い場所なのに、今まで住んでいた下宿の方が高かったので」
[2/4ページ]

