「私はDV夫と命がけで離婚。あなたは?」W不倫の相手に迫られて 結局すべて失った50歳夫の間の悪さ

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夫婦の対立を制したのは…

 互いを罵り合うケンカが毎日のように続いた。ある日、高校生になったばかりの娘が「いいかげんにして」と叫んだ。

「さっさと離婚すればいいじゃない。私はひとりになってもかまわないから」

 その言葉に晃匡さんも結衣さんもハッとして黙り込んだ。「ごめん」とふたりは声を合わせた。

「私のために離婚しない、離婚できないなんて言わないでよ。私には私の人生があるんだから」

 娘の言葉は辛辣だった。逆に「離婚しないと娘が納得しない」ような状況に追い込まれた気がすると晃匡さんは言った。話し合って離婚しないことにしたと言っても、娘は傷つくだけだろう。

「娘の前で、まあ、確かに私たち、そんなにうまくいっていたわけでもないしねと、結衣が言ったんですよ。でも、そんなに不仲だったわけでもないよと僕は言った。『私はおばあちゃんにかわいがってもらった。おとうさんは自分の義務を果たすため、なんとか私と一緒にいようとしてくれた。おかあさんは仕事最優先だったけど、その姿は私の人生に悪影響は及ぼしていない。寂しくなかったわけではないけど』と、娘が本音を語ったんです。まだ16歳なのに、こんなに客観的に見て、自分の頭で考えていたんだと驚きました」

 でもひとつつけ加える。義務を果たすためだけじゃない、僕はきみを心から愛しているよと晃匡さんは言った。娘のことが大事だったからこそ、そばにいようと心がけたのだ。

「親の義務と愛情って、きちんと分けることはできないでしょと娘は淡々と言いました。結衣が崩れるように泣き出したんですが、娘は『みんなそれぞれに生きていけばいいんじゃないの』と冷静だった。お金があるなら留学させてくれないかなとも言った」

タイミングが悪かった

 一家の行く末を決めたのは娘だった。親でありながら、大人でありながら、晃匡さんも結衣さんも「決定」ができなかった。

「冷静に離婚を決めて、親権は結衣、僕は家を出ていくということになりました。ただ、娘が高校を出るまではこのまま暮らしていこうと。それでも離婚は成立した。僕はあわてて真智子に連絡しました。離婚が決まったと。だけど真智子からは、『もう遅い。私は気持ちが切れました』と」

 その後、電話で話す機会があったのだが、真智子さんは毎日が楽しくて、仲のいい男友だちもできたと弾んだ声で言った。あなたには人生をやり直す機会をもらった、本当にありがとうというのが決別の言葉だった。

「僕の気持ちは切れていなかったけど、真智子は新しい世界を知って羽ばたくことができたんでしょう。タイミングが悪かった」

 思えば結衣さんからの離婚の申し出がもう少し早かったら、真智子さんと一緒になれたのかもしれない。あるいは結衣さんが離婚を言い出さなければ、彼は離婚しなくてすんだかもしれない。

「どちらもタイミングが悪くて、どちらも失った。今になってみると、いろいろなことが重なって、でも僕が決断できなくてこうなったんでしょう。娘は1年後には留学するらしいです。もう、みんな元気でいてくれればそれでいいやと思うしかありません」

 自分の人生があとどのくらいあるのかわからない。だが、人間、生まれてくるときも死ぬときもひとりだと思うことにした。

「今、うちは同じ屋根の下に暮らしながら、それぞれバラバラです。寂しいなと思うときもあるけど、完全にひとりきりになる準備期間だともいえる。誰かと一緒に暮らして家族ができて、いい形を継続させるのは本当にむずかしい。結衣も僕も、家庭を持つタイプではなかったのかもしれない」

 そう言ったあと、「正直言って、家庭を守りきれなかった自分が情けないです。でも結衣も娘も非常に元気なんですよ。女性は強いですね」と、彼は力なく言った。

 ***

「ずるずるしているうちにすべてを失った」と語る晃匡さん。結衣さんとの夫婦関係でいえば、スタート当初からすれ違いの兆候はうかがえた。妻の浮気疑惑を抱くに至ったエピソードなどは【記事前編】で紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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