地元再訪の“過去への旅”でとんでもない事態に… 引きこもり兄の真相、出自の秘密、「離婚する?」と妻から言われて
荒んだ心で同窓会に参加したら
過去を受け入れられなかったのだが、素直に受け入れられないと認められない。自縄自縛の感情が彼を苦しめた。そこまで感情が揺れたのは初めてだった。悶々としながら日々を送った。50歳を過ぎて現場に出ることはなくなり、仕事でのやりがいも半減していた。
「ひどく心が荒んでいたとき、小学校から高校まで一緒だった幼なじみの美弥ちゃんから、連絡がありました。僕が実家や幼なじみを訪ねて歩いていたことを知っていた。SNSのメッセージで、『私も会いたかった』と言ってくれた」
すぐ返事を出して美弥さんに会う計画を立てた。幼なじみとの再会は楽しく、あっという間に時間が過ぎていった。
「そのとき言われたんですよ。『高校時代にあなたとつきあっていた香織のこと、覚えてる?』って。そういえば短期間だけどつきあっていたなと思っていたら、『香織に口止めされていたから言えなかったけど、あのとき香織、妊娠したんだよ』と。無責任なつきあい方をしていたことを思い出しました」
香織さんは密かに中絶したのだという。それを知っているのは美弥さんと美弥さんの兄だけだった。美弥さんの兄はこっそり同意書にサインした。香織さんを救うために。香織さんはその後、大学に進学して留学、今では起業して成功しているのだという。
「香織に会うかと聞かれたけど、僕は答えられなかった。自分は何も知らなかった。知ろうとしなかった。香織とは自然消滅したけど、確かにあのころの香織は変だった。どうしたのと聞くべきだったのに。薄々気づいていたのに」
美弥さんの慰め
自分の浅さを知り、彼は居酒屋のテーブル席にいる美弥さんの目の前で落涙した。1度流れ出した涙は止まらない。美弥さんは気を遣ってそそくさと店を出ると、彼を建物裏の人気のないところへ連れていってくれた。
「いい年したおっさんが泣くんじゃないのと怒られました。でも僕は美弥ちゃんに抱きついて泣いてしまった。彼女はそのまま僕をホテルへと連れて行ってくれました。もちろん、何もしていません。気の済むまで泣かせてもらった」
ただ、それをきっかけに晃平さんは美弥さんと会うようになった。自分の卑怯さを知っている美弥さんに対してだけは、彼は素でいることができたのだろう。
「オレの人生、全部嘘だったんだと思った。点が線になったからこそ、人生すべてが真っ黒だと感じていた。でも美弥は『もともと人生は線だと思えばいい。そこにきらめくような点もあれば、真っ黒な点もある。どれかひとつ取り出して、自分の人生を代表させないほうがいい。人間、いろいろ失敗するよ』と慰めてくれました。気が晴れたわけではないけど、何があってもたいしたことじゃないとかっこつけて当事者にならなかった自分への嫌悪感が、少しだけ薄れた。香織に謝ると言ったら、むしろ会わないほうがいいと言ったのも美弥ちゃんでした。香織は今を生きているのだからって」
一気に過去に引きずり戻されたまま、今を生きられなくなっていたと晃平さんは気づいた。彼が迷い、揺れている間にも息子は日々成長し、高校を卒業して大学へと進学していった。
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