地元再訪の“過去への旅”でとんでもない事態に… 引きこもり兄の真相、出自の秘密、「離婚する?」と妻から言われて

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「きちんと自分の人生を修正したい」

 彩菜さんは出産を機に家庭に入り、息子が10歳になったころからパートとして働き始めた。家庭は彼女に任せておけば万事、うまくいく。

 息子も明るい子に育った。晃平さんが出張から帰ったおりなどは、「おとうさん」とまとわりついてくる。「おとうさん、お仕事の話聞かせて」が定番だった。晃平さんは旅先であったことなどをおもしろおかしく話した。

「そうやっているうちに仕事のストレスも飛んでいく。人生に大きな目標などもっていませんでしたが、息子が年を重ねていくのをずっと見ていたいと思うようになりました」

 息子が中学生になった年に晃平さんは50歳を迎え、前述したように自分の人生を一本の線として見られるようになった。10歳のときの自分も20歳の自分も、自分の中から取りだして客観的に眺めることができるようになり、これからはもっと人生を心豊かに過ごしていけるかもしれないと感じていた。

「一方で母親の浮気など、封印してきた事実も浮かんできた。今までの僕なら見て見ぬ振りをするとかやり過ごすとかができたと思うんですが、もうそれはできないと感じていました。ここでもう一度、きちんと自分の人生を修正したいような気持ちになったのかもしれません」

 彩菜さんにおおまかなことを伝え、彼は仕事の合間に過去への旅に出た。生まれ育った土地へ行き、実家のあった場所を訪ねてみたが、見知らぬ光景が広がっていた。周辺の土地と合わせておおきなマンションができていたのだ。

家族との再会

 別の日には、父に連絡をとって会ってみた。小さなアパートでひとり暮らしている父に数年ぶりに会ったのだが、彼と兄とを取り違えているのか、話がすれ違ってばかりだった。

「母は認知症がひどくなり、施設に入っていました。母とも何年ぶりだったか……。僕のことは覚えていなかった。でもそれでいいんです。母の人生も大変だったんじゃないかと思いました。それを人生最後に思い出さなくてすむなら、それでいいのかもしれません」

 兄もまた、グループホームにいた。とうとう人生を軌道修正できなかったらしい。ホームに連絡をとると、兄が会いたがっているという。会ったところでどうしようもないと思いながらも、ホームを訪ねた。

「そこで知らされたのは、兄が母と叔父の子だったということです。それを知ったのが就職2年目で、だから兄はショックを受けてひきこもってしまった。『おまえもそうかもしれないぞ。調べてみたほうがいい』と兄は皮肉な表情で言ったけど、『別に僕は父親の子だろうと叔父さんの子だろうと、どっちでもいいよ』と言いました。本当にそう思ってた」

 自分の過去を巡る旅はさんざんだったが、それでも一応、過去に決別できたとして、彼は前を向こうとした。

「ただ、なんだか釈然としないんですよね。過去50年は無駄だったのか、いや、人生に無駄はない、いや、人生は無駄だらけだと、いろんな感情がわいてきて。自分の存在証明をしたいと思い始めてしまった」

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