長すぎる髪の少女、聞きなれない異国の声…昼夜を問わず“怪異”が押し寄せる60歳男性が明かす体験集【川奈まり子の百物語】

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濡れた腰ひも

 自宅マンションのそばまで帰ってきたときには、午前1時を過ぎていた。

 マンションの建物に隣接して、ここの住人専用のゴミステーションがある。

 簡易な壁と屋根を備えたゴミの集積場だ。

 その壁面に顔と体の腹側をぴったりと押しつける感じで、髪が長すぎる女が立っていた。

 後ろを向いているので着物かドレスか判然としないが、何か丈の長い物を着てうなじの辺りで紐で縛っている。

 その毛束の先端が、地面に届いているのであった。

 なんやあれ。気持ち悪ぅ。

 そう思いつつ、女の横を通り過ぎたところ、髪を結わえている紐が、和装用の腰紐であることに気がついた。

 その腰紐はぐっしょりと濡れて、ポタポタとしずくを垂らしていた……。

切り傷

 彼女は慣れた手つきでハサミを操りながら話していたが、そこでビクッと手を震わせたかと思うと、急に動きを止めた。

 どうしたのかと思い、タケダさんは鏡に映る美容師の顔に注目した。

 すぐに目が合い、「どないしましたん?」と彼が訊ねると、彼女はすぐには答えずに、

「ちょっと失礼します」と言って奥に引っ込んでしまった。

 2~3分すると出てきて、黙って作業に戻ろうとする。

「なんかあったん?」と彼は再び訊いた。

 すると美容師は、右手の親指の付け根に貼った真新しい絆創膏を彼に見せた。

「……ハサミで手を切ってしもたんです。ウチは右利きで、こっちの手でハサミを持ってるんやで? つまり絶対に切れへんはずのところが突然スパッと切れたんです!」

知らんけど

 タケダさんは大型犬を飼っている。朝晩の散歩が必要な犬種だが、朝はともかく、夜はいつも早く帰れるとは限らない。

 家族も全員働いているから、ときには深夜に犬の散歩をするはめになる。

 その日も、犬を連れていつもの公園に着いたときには夜の23時近くなっていた。

 昭和の終わり頃に出来た児童公園で、周囲は一戸建ての多い住宅街だ。住民の高齢化が進んでいるから、もう明かりをすべて消して寝静まっているような家が多い。

 こんな環境だから当然のこと、公園には誰もいなかった。

 広場で犬を放して15分ほど遊ばせてやり、再びリードを付けて園内を歩いた。

 やがてブランコのそばを通りかかると、犬が急に立ち止まった。

「なんや?」

 犬の視線の先にブランコが2台あり、うち1台が揺れていた。

 呆気に取られて見つめたら、それは振り幅を急に大きくしはじめて、ブンブンと派手に揺れだした。

 力いっぱいブランコを漕ぐ子どもの姿が視えてしまいそうな気がして、彼は慌てて公園を後にした。

 そのとき彼は、子ども時代に耳にしたこんな噂話を脳裏に蘇らせた。

「タケダのうちの近くの公園に俺たちぐらいの子どもの像があるやろ? あれって夜になると動き出して、独りで遊んでるんやって! 知らんけど」

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