「200kmを時速40km」列車の所要時間は?を“暗記”で解く子どもたち… 「数学嫌い」を招く誤った学び方
「数学が苦手」「算数が嫌い」。そう感じた経験のある人は少なくない。なぜ苦手意識は生まれ、どうすれば減らせるのか。東京理科大学理学部教授、桜美林大学リベラルアーツ学群教授を歴任し、数学教育に半世紀以上携わってきた芳沢光雄氏は、その背景に「誤った学び方」があると言う――。
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【問題】正しい図は?「赤いテープの長さは120cm」「赤いテープの長さは、白いテープの長さの0.6倍」
算数や数学に関する教科書や参考書は膨大にある。さらに、「数学嫌い」という題が付く書もたくさんある。それらの書の狙いをよく見ると、算数や数学の試験で良い成績を収めるとか、算数や数学を面白いと思うようになることである。そして結果として、数学嫌いの意識が弱まることに繋がるのである。
一方で、スポーツの指導では、Aという練習法は良いが、Bという練習法は悪く、怪我にも繋がりかねないという注意がいろいろある。また、薬の説明書では、適切な飲み方の説明ばかりでなく、副作用を引き起こさないための注意書きも添えられている。
それを算数や数学の学びの世界に置き換えてみると、スポーツでの悪い練習法や、副作用を引き起こしかねない服用法に相当するような、数学嫌いに至る誤った学び方を前面に出した書があっても良いだろう。そこで、それらの事項をまとめた書として『数学嫌いの犯人』(日経プレミアシリーズ)を2026年の新年早々に上梓した。全小項目の題はネットでも見ることができるが、あくまでも誤った学び方や意識であって、そのように算数・数学を学んでもらっては数学嫌いに至るというものである。以下、参考までにいくつかの項目について簡単に要点を紹介しよう。
幼いこども対象の整数や小学低学年生対象の九九の導入では暗記から始める
小学校に入学する前のお子さんをもつ親と子どもの会話で、次のようなものがたまにある。
「お隣のA君は50まで言えるんだって。向いのB子ちゃんは100まで言えるんだって。みんな小学校に入学する前に、数をいっぱい覚えているのね。あなたも、せめて30まで覚えましょうね。『イチ、ニ、サン、シ、…』とたくさん暗記するのよ。ハイ、言ってごらんなさい」
「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク、ハチ、ク、ジュウ、…」
「ダメね。ロクの次はシチでしょ。もう一度言ってごらんなさい」
昔ガラガラの電車内で、20ぐらいまではスラスラと唱えることができた子どもに、お父さんが(車両の意味を説明して)「この車両の中に何人のお客さんがいるかな」と質問した。しかし、せいぜい10人前後の人数が、子どもは全く答えられない光景を見た。要するに、子どもは整数をほとんど理解していないのである。たとえば、「3」ならば、3人も、3匹も、3本も、「3」という抽象的な数の具体例だということを、それぞれの図を描いたりして理解させなくてはならない。
小学1年では、足し算と引き算を学ぶ。上で指摘したことは忘れてほしくないことである。小学2年になると掛け算を学ぶ。「九九」は絶対に覚えなくてはならないことであるが、注意すべきことがある。
10年ほど前の筆者のゼミナール生ばかりでなく、当時、授業を受けていた何人かの学生からも次のように指摘されたことがある。
「算数の授業でいきなり、サブロクジュウハチ、シチクロクジュウサン、…、このような意味不明な言葉をたくさん覚えなさいと言われました。たまたま、学習塾に通っていた友人に聞いたら、その意味を教えてもらって理解できましたが、これはめちゃくちゃな教育だと思いませんか」
という証言である。このような教育が、一部のご家庭にも浸透しているようである。要するに、
3+3+3+3+3+3=18
だから、「サブロクジュウハチ」なのである。この前提を忘れて、いきなり「サブロクジュウハチ」を暗記させることは、英語で「I(私)」「have(もつ)」「a(一つの)」「pen(ペン)」を説明する前から、「アイハブアペン」を覚えさせるようなことではないだろうか。「順番」を間違った教育は絶対にダメである。
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