中村勘三郎さんが“3人目のせがれ”と呼んだ「中村鶴松」の逮捕劇…映画「国宝」に重なる“部屋子”という複雑な世界

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部屋子出身役者の、微妙な立場

 ある梨園関係者の話。

「歌舞伎界は、せまい世界です。〈上下関係〉と、〈血縁の有無〉という、才能とは無関係のしがらみが2つある。名門の役者は甘やかされて育ちます。子どものころから、周囲のおとなが自分のためにあれこれやってくれるので、何でも思い通りになるような錯覚をおぼえ、酒席でもその延長でふるまってしまう。團十郎がその典型です。中クラスの役者は、上と下に挟まれてストレスが溜まっていく。46歳になって歌舞伎界に入った中車がそうです。さらにその下、特に血縁のない名題下は、問題を起こしても復帰できる御曹子とちがい、一度キレたらもうおしまいですから、キレることもできない」

 ところが、そのどこにも当てはまらない、微妙な立場の役者がいるという。

「それが、相応に人気のある部屋子出身の役者です。鶴松が、その代表格です。本来、部屋子とは、血縁はないものの、才能のある子を、幹部俳優が、弟子と実子の中間的な立場に置いて育てる制度です。しかし、ここからさらに出世するには、幹部俳優の養子になって、“戸籍上の血縁”になるしかありません」

 たとえば、坂東玉三郎は部屋子から守田勘弥の養子に、片岡愛之助は片岡秀太郎の養子となった。

 話題の映画「国宝」は、この部屋子出身の役者(吉沢亮)が、名門幹部俳優の実子(横浜流星)を差し置いて出世し、人間国宝になる話だった。モデルは坂東玉三郎か? と話題になったが、同時に、中村鶴松をも思わせるとの声もあった。

「ただし、鶴松の場合、“父親”にあたる幹部俳優が、もういません。“3人目のせがれ”とまで呼んでくれた勘三郎は、早世してしまった。おそらく鶴松は、自分の行く末を想像して、つらかったのではないでしょうか。現に、いくつかのインタビューで、部屋子のつらさや苦労を語っています。もちろん、だからといって、今回の事件が看過されてよいわけではありません。しかしその一方で、おなじ中学高校の後輩で、おなじく一般家庭出身の中村莟玉が、人間国宝・中村梅玉の養子になったので、ますます複雑な思いになっていたのかもしれません」

 その莟玉が、今回の「新春浅草歌舞伎」で、数時間の準備で見事に鶴松の代役をこなし、絶賛を浴びた。

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