中村勘三郎さんが“3人目のせがれ”と呼んだ「中村鶴松」の逮捕劇…映画「国宝」に重なる“部屋子”という複雑な世界
「あれは誰の息子?」「一般子役らしいよ」
さて、そんな道を歩んできた鶴松だが、役者としては、どうなのだろうか。それこそ〈大ちゃん〉の時期から注目していたという歌舞伎ファン(50歳代、女性)に語ってもらった。
「小柄ですっきりしたお顔立ちなので、娘役が多いのですが、子役のころから、男の子のお役も上手でした。たとえば――2002年12月の歌舞伎座『佐倉義民伝』は、五代目中村勘九郎(のちの勘三郎)、三代目市川猿之助(のちの猿翁)に、坂東玉三郎という豪華配役でした。この狂言では、主役・宗吾(勘九郎)の長男・彦七という子役が、泣かせる重要なお役です。よく幹部俳優の息子さんやお孫さんが演じますが、このときは、おそらくほとんどの見物にとって無名だった、一般子役の〈大ちゃん〉が演じました。それが、あまりにうまいので、『あれは誰の息子?』『一般子役らしいよ』と評判になったほどでした」
近年でも、やはり、若い立役が印象に残っているという。
「2021年8月の歌舞伎座『真景累ヶ淵』では、豊志賀(中村七之助)と深い仲になる色男の新吉役で、シリアスとコメディの中間風をうまく演じわけていました。昨年2月の『文七元結』では、手代文七でした。橋から投身自殺しようとするのを、長兵衛(中村勘九郎)に強引に止められ、『何するんですか、そんなことされたら死んじゃうじゃないですか!』と笑わせるお決まりの場面があるのですが、ここなど抱腹絶倒で、いろんなお役をこなせる役者さんになったものだと、感心しました」
この女性は、これまでの鶴松の自主公演「鶴明会」を、2回とも見物しているという。
「会場は、おなじみの浅草公会堂。1回目は2022年6月で、演目は『高坏』と『春興鏡獅子』でした。特に『鏡獅子』は前半のお小姓弥生が実に可愛らしく、後半のお獅子も大熱演でした。1日かぎりの2回公演でしたが、ともに満席で、最後は全席スタンディング・オベーション。歌舞伎公演と思えない、すさまじい熱気でした。このときは、勘九郎・七之助の両“お兄さん”が、幕間のトークショーに来てくれた、そのせいもあるでしょうが、部屋子出身の役者の自主公演としては、異例の大成功だったと思います」
しかし、このあと、かすかな“不安”を、このファン女性は抱くようになったという。
「どうもこのころから、お芝居やセリフに力が入りすぎているような気がしました。たとえば2024年2月の歌舞伎座『野崎村』のお光は、可憐で哀れを誘う演技でしたが、もうすこし軽やかさが欲しかったと思いました」
2回目の自主公演は、昨年9月だった。
「やはり浅草公会堂で、今度は2日間で3公演も。彼のような部屋子出身の若手で、自主公演を3回まわせる役者は、まずいないと思います。たいへんな人気ぶりで、ちょっと驚きました。演目は『勘平腹切』と、『雨乞狐』。このときもやはり、勘平は大熱演だったのですが、自ら腹を切って死んでゆく様子が、すこしパワフルすぎるように感じました」
後半の踊り「雨乞狐」は中村屋ゆかりの、大切な演目だという。
「それを引き継がせてもらうこと自体、“大出世”の証しです。しかしこの踊りは、中腰ジャンプの連続で、早変わりで六変化する、とてもきついアクロバティックな舞台なんです。以前、勘九郎さんは、勘太郎時代にこれを踊って、じん帯を切断してしまったほどです。〈大ちゃん〉は、怪我もなく3公演を踊り切りましたが、このときも、かなり力が入っていて、もう少し軽快な感じがあったらなあと思いました」
その「雨乞狐」は、2月の〈中村舞鶴襲名披露〉で演じる予定だった。つまり昨年の自主公演は、一種の“事前試演”だったのだ。
「あんなたいへんな踊りを、歌舞伎座の大舞台で、しかもあのパワフルさで24日間演じるなんて、ほんとうに大丈夫なのかと、心配していました。それだけに、正直いうと、降板になってホッとしたような気持ちもあるんです」
だが代演は、さすがに勘九郎一人では無理で、六変化を、七之助と2人で踊り分けて代演することになった。それほどキツい演目なのである。ちなみに、いま、勘九郎44歳、七之助42歳である。これだけでも、鶴松がいかに一門に迷惑をかけているか、想像できよう。
ファン女性がいうように、鶴松は、近年、芝居に力が入りすぎてしまい、酒席まで、その延長となってしまったのかもしれない。
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