「2人目いらない」はずの妻が突然の心変わり→即妊娠… 真相を知って“歪んだ愛おしさ”をおぼえた53歳夫の胸中

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妻の電話を盗み聞きして

 月が満ちて男の子が生まれた。妻に黙って遺伝子検査をしてみると、智博さんの子に間違いないという結果が出た。妻は知っているのだろうか。

「半年ほどたったころ、夜中に妻が誰かと電話でひそひそ話しているのを聞いてしまったんです。『今度、会ってやって。かわいいの。あなたにそっくりなの』と妻は言っていた。やっぱりと思いました。でも僕は、妻との生活を壊す気にはなれなかった」

 娘が弟を予想以上にかわいがっているのも愛おしかった。妻は息子にかかりきりだから、智博さんはよく娘を連れて遊びに出かけた。父親を独り占めできるのがうれしそうに見えて、「軽薄に生きてきた自分を信用してくれているのか」と気持ちを揺さぶられた。それも、妻が浮気したおかげなのかもしれないと自虐的に考えてみたが、不思議と妻への怒りはわいてこなかった。

「なんですかね、いきなり仏みたいになっちゃった自分に戸惑いました。感情が動き始めたというのかな。でも怒りだけは抜け落ちているというか。妻からは一度も離婚という言葉が出なかった。妻は決して僕を騙そうとしたわけじゃないと思うんです。あの人は基本的にいつでも正しい。だけど夫以外の男を好きになった。その証として息子を授かった。たぶん、妻はその後、男とは縁が切れていると思います。それならそれでいいんじゃないか。そんな気になりました」

 かわいがって育てた娘は、大学を卒業して就職して3年。最近、ひとり暮らしを始めた。ひとりでバリバリ仕事をするんだと張り切っている。息子は大学生になった。智博さんの子で間違いないのに、「顔は僕には似ていないと思う」と彼は言う。妻の思いが息子に乗り移っているのかもしれないと薄く笑う。妻が愛する男性の子だと思いながら育てたのなら、それもいいんじゃないかと智博さんは考えているそうだ。息子とはときどき釣りに行く。ふたりで話しながら釣り糸を垂れているのは至福の時間らしい。

結婚25年…「これでいいと」

 結婚して25年がたった。結婚記念日のお祝いなどしたこともないふたりだが、25回目だけは智博さんから誘って食事に行った。

「啓子の好きなお鮨を堪能しました。途中で妻が何か言いたそうな気配だったので、『これからもふたりで前だけ見て歩いていこう』と言ったんですよ。あなたがそんなまっとうなことを言うのは珍しいわねと、いつもの調子でツッコんできたので、どうせオレは軽い男だよ、人生適当だからと笑い飛ばしました。笑いながらちょっと涙が出てきて焦った。妻がじっと見ていたから」

 そこへ娘と息子が乱入してきて、4人でたっぷり食べ、智博さんの財布からお金がほぼ消えた。 啓子、今月はカンパ頼むと言ったら、妻は「娘からもらえば」と冷たい口調で突き放した。いつものリズムである。

「これでいいと思いました。過去をほじくり返すことに意味はないし、やっぱり僕自身は軽く生きていきたいし。久々に街でナンパでもしてみます」

 智博さんは笑いながらそう言うと、繁華街に消えて行った。

 ***

 妻の不貞疑惑が、かえって智博さんの心に安寧をもたらしたようだ。本人は「感情が動き始めた」と自己分析するが、裏を返せば、感情が動かなかった人生の時期が長かったともいえる。【記事前編】では転校続きだった幼少時代と、人生観に影響を与えているであろう「おじさん」との交流について紹介している。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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