華やかな「駐在妻」のリアル…駐妻だった母の悲劇、“自分も同じ道を辿りかけて” 専門カウンセラー女性の告白

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日常生活に潜む「地味でも逃げ場のないストレス」

 約4年間のタイでの暮らしでは、独特のしんどさや地味に効いてくる小さなストレスの連続だったという。

「例えば、歩道がガタガタでベビーカーがまったく進まない。たった数百メートルの移動でも一苦労で、荷物も多く暑い中だと、逃げ場もありません 。さらに、寒期はPM2.5で空気がとても悪くなり、数十メートル先まで霞むほど。そのため洗濯物は一年中、室内干しです。また、水道管の老朽化で水が汚れており、なぜか洗うたびに洗濯物が黒ずんでしまう。タイでは水道水を絶対にそのまま飲んではいけないので、浄水器を付けていますが、一度に使える量が限られ、チョロチョロとしか出ないんです。蕎麦を茹でても水で締めることができずにのびてしまうほどでした(笑)」

 食材に関しても、日本食のスーパーはあるものの、魚の種類は限られていた。

「わが家ではサバ一択でしたね……。どこの国でも、その国独自の不便さというものがあって、それが地味に積もっていって、大きなストレスになるんですね」

存在意義を見失い「私はなんのためにここにいるの?」

 駐在妻たちが渡航して3ヶ月から半年という比較的早いタイミングで陥りやすいのが、「アイデンティティ・クライシス(存在意義の危機)」だと前川さんは指摘する。

「日本にいるときは、仕事や地域活動など多様なコミュニティに属していますよね。それが海外ではビザの関係で働けない国が多く、知っているのは夫や子どもだけ、やることは家事と育児のみ、となりがち。そうなると、『私はここで何をやっているんだろう』『何のためにいるんだろう』という悩みに直面するのです」

 この傾向は、特に日本でバリバリ働いてきたキャリア志向の女性ほど強く見られるという。

「駐在妻にはご自身も高学歴な方やハイスペックな方が多いんです。若い世代は女性が働くのが当たり前の風潮で育ってきたので、海外でいきなり『内助の功』だけを求められても受け入れがたい。余計に葛藤して悶々としてしまう方が多い傾向にあります」

 さらに深刻なのは、日本にいる家族や友人とのコミュニケーションが、かえって悩みを深めてしまうパターン。

「悩みを聞いてほしくても、日本にいる人からすると、“働かなくていいなんて最高じゃん”とか、“それって自慢?いい生活してるんでしょう?”という風に捉えられがち。それを真正面から受け止めて、“贅沢な悩みなのかも”“私がおかしいのかな”と自責の念にかられてしまうのです」

 ストレスから円形脱毛症や不眠症に悩まされる、涙が止まらなくなる……など精神的に追い込まれてしまう駐妻たちをたくさん見てきた前川さん。

「一方で、私が『プロ駐妻』と呼んでいるのが、40~50代の層です。“ついてきてお世話をしてあげているんだから当然でしょう”と完全に割り切って、ランチや習い事を罪悪感なく楽しんでいる妻たちも」

 ただ、そうした適応ができるか否かは個人の資質だけでなく、周囲の環境にも大きく左右される。【記事後編】では、特殊な「日本人コミュニティ」の閉塞感や、妻を「夫の付帯物」として扱う企業の古い体質など複雑に絡み合う「闇」の実態に迫る。

お話を伺ったのは……
前川由未子さん
金城学院大学国際情報学部 専任講師。臨床心理士、公認心理士。産業組織領域を専門に、これまでに5000人以上の支援に携わる。2025年、海外居住者のメンタルヘルスケアを提供する(株)Taznaを設立。

取材・文/荒木睦美

デイリー新潮編集部

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