知ると楽しめる「ばけばけ」 ドラマと史実の違い “なれそめ”“出生の秘密”そして“歯”
士族の女性は歯を見せるのを嫌ったが……
最後に、筋書き以外の点をひとつ指摘したい。松野トキを演じる高石あかりが、いつも大きく口を開き、歯をむき出しにして笑っていて、番組宣伝のための写真や、主題歌と一緒に写されるカットにも、そういう表情が数多く選ばれていることが、筆者は気になっている。
江戸時代の武士は、なるべく笑わないように努めた。武士はいつも冷静で、感情に流されないのが理想とされた。笑いは典型的な感情の表れで、だからそれを抑えることが、精神的な強さの証だとされたのだ。江戸時代には主に既婚の女性が行ったお歯黒も、笑って歯を見せるのがはしたないという意識と関連がある。
そこに明確な基準があったわけではないが、武士が笑いを抑えようとし、武家の女性は白い歯を見せないように気をつけた。少なくとも、そうしたほうがいいという社会通念があった。
セツは士族の娘である以上、白い歯を見せないほうがいいという意識は、染みついていたと思われる。実際、残されたセツの写真はいずれも口を結んで、歯はまったく見えない。晩年に近いころの写真には、目が笑っているものもあるが、口はしっかり結んでいる。そこにはセツの矜持が強く感じられる。
NHKの制作現場で、歯を見せすぎないほうがいいと、だれかが指導することはできなかったのだろうか。







